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☆special☆
2013.5.4 土方birthday(前編)
2013.5.4 土方birthday(前編)

 

「土方、別れよう…」

突然告げられた終わりの言葉に体が硬直した。
嫌な予感はしていたのだ。

最後に万事屋が誰を選ぶかなんて解りきっていたから。

それでも、僅かな望みを捨てられず
「お、い…ちょっと待…ッ」
伸ばした手は、

虚しく空を掴んだだけだった。

 

 

万事屋の手料理を堪能し、食後の一服を燻らせながらTV画面を眺めていた。
オレンジ色の少女の隣で。

俺が来た時からずっと流れていたバラエティ番組を見続けているチャイナ娘。
一言も発せず黙々と食事をし、今も視線はTVの方を向いている。

クスリ、とも笑わずに。
口を真一文字に結んだまま。

万事屋と付き合うようになり、頻繁にココへ訪れるようになってから、
チャイナ娘は俺と言葉を交わさなくなった。
視線すら合わせないようになった。

『俺をお前に取られたとか思ってんだろ。そのうちケロッと機嫌も直るって』
万事屋はそう言っていたが、一向にそんな様子はなく、3ヶ月が経とうとしている。

 

「あ、土方」

台所で洗い物を終えた万事屋がエプロンで手を拭きながら戻ってきた。

「なんだ?」
「そういやお前、明日誕生日だろ」
「あ、ああ」

俺の誕生日を知っていてくれたと喜んだのは一瞬。
隣でビクリと肩を震わせたチャイナ娘が視界の端に入った。

「何か欲しいモン…いや、金はねぇから、して欲しい事とかねぇの?」
「急に言われても思い浮かばねぇなァ…」
「ふぅーん…。あ、明日オフなら、泊まってく?んで、万事屋でお祝いしてやろうか。ケーキくらいなら作ってやっけど?」

なにより嬉しい申し出に思わず口が綻び、礼を述べようとしたその時、
「駄目アル」
相変らず視線を前に向けたまま、チャイナ娘が口を開いた。

「神楽?」
「駄目、アル」
「お前も銀さん特製ケーキ食えるんだぞ?」
「いらないネ…ッ。マヨラの為に作ったケーキなんていらない!!」

いきなりの大声にでかい犬が振り向き首をかしげた。
同時にキッと鋭い視線が俺を射抜く。

はじめて向けられたチャイナ娘の視線は、温かいものではなかった。

「マヨラの誕生日なんか祝ってあげないアル」
「おい、神楽」
「明日はこどもの日ネ!銀ちゃんに祝ってもらうのは私アル!」

ソファから飛び降りるようにして万事屋の元へ駆けて行き、ギュッと袖を掴んで見上げた瞳には大粒の涙。
先ほどまで何度か俺を気遣うようにチャイナ娘と交互に向けられていた万事屋の視線も、今は蒼い瞳を真っ直ぐに捕らえていた。



今まで気付かぬ振りをしていた疎外感がキュッと心を締め付ける。

「か、ぐら…っていうか、端午の節句は男の子のイベントだし…」
「じゃぁ新八の為でもいいアル」
「…」
「ねぇお祝いしてくれるデショ?銀ちゃんと私と新八は家族ネ!だから、お祝いしてくれるデショ?」
「なら、端午の節句とアイツの誕生日を一緒に…な?」
「嫌アル!」
「神楽…」
「銀ちゃんは、私達とマヨラどっちが大切アル?家族と…他人、どっちが大事アル?」
「…」

言葉を詰まらせた万事屋から離れ再び向けられたキツイ視線。
他人、へと向けられた、敵意。

「マヨラ。お前、ゴリラと銀ちゃんどっちが大事ネ」
「え?」
「もし、ゴリラと銀ちゃんが同時に危ない目にあっていたら、お前どっちを助けるネ。真選組と銀ちゃん、どっちを選ぶアルか」
「…」

迷う事無く頭に浮かんだのは、近藤さんだった…。
それを見透かしたのか、チャイナ娘がフッと笑う。

「私は違う…迷わず銀ちゃんを助けるネ。もしバカ兄貴が襲ってきても、迷わずバカ兄貴を蹴散らしてやるヨ。銀ちゃんを一番大切に思ってるのはお前じゃない。…私アル!!」

 

何も言い返すことが出来なかった。

それは、俺も万事屋もわかっていながら曖昧にしていたグレーゾーンだった。
互いに一番大事なものにはなり得ない。
これから先どれだけ長い時を重ねても。

同性であるという事以上に、俺達にとって触れたくない、触れて欲しくない、大きな問題だった。
目を背け続けていたい、闇だった。

「神楽」
「…銀、ちゃん…」
「明日は、端午の節句を祝おう」
「銀、ちゃん」
「新八呼んで、3人で、祝おうな」

ぽんぽんとあやすようにオレンジ色の頭を撫でる。
優しい弧を描く眉と唇。
半目の紅い瞳は、自愛の光を宿していた。

「…銀ちゃ…ごめ、んなさい…」
「謝ることなんてねぇよ。悪いのは俺だ…全部…」

全部…。
その中に、俺も入っているのか?

落ち着きを取り戻したチャイナ娘を、俺の向かいのソファに座らせて頭を撫でると、
「ちょっと、待ってろな」
一声かけてから、すまなそうに俺を見て、クイッと親指を玄関へと向けた。

俯いたままのチャイナ娘を残し、万事屋の後について外へ出る。
ガラガラと閉まる玄関扉。
ギシギシと音を立てる外階段。

月明かりも差し込まない階段下で、万事屋は足を止めた。

薄い壁の向こうから聞こえる楽しげな酔っ払い達の笑い声が、耳に障る。

「悪かったな…」
「…いや」
「まさか、神楽に…あんな事、言われるとはな」
「俺の誕生日くらい気にするな。祝ってもらう年でもねぇし」
「そっちじゃ、ねぇよ」

だろうな。
はぐらかせたつもりが、断定になっちまった。

「わかって、いたのにな。お前が真選組を一番大事に思っていることも、俺がアイツ等を一番に思っていることも」
「…」
「俺は別にいいんだ。お前にとって俺が一番じゃなくても。だからお前と一緒に居ることを選んだ。神楽もいつかはわかってくれるって思ってた」

“思ってた”
既に過去形にされた言葉が胸を突き刺す。

「万事屋、俺は…」
「ごめん、土方」
「万事屋…?」
「神楽に認めてもらえねぇのは、キツイ。…失いたくねぇんだ」
「お、い…」
「神楽を失いたくねぇ。…お前、よりも」

ドクンッ。

はっきりと告げられた選択。
胸を叩く鼓動が、痛い。

けれど責めることなどできる筈がない。
俺にはその権利が、ない。

「このままじゃ神楽の心が歪んじまう。…アイツを泣かせてまで、俺、我侭通せねぇ。…だから」

言う、な。

言わないで、くれ。

「なかったことに、してくれ…」

 

終わりの言葉なんて、
 

「土方、別れよう…」

 

聞きたく、
なかった――。
 

[5月5日へ続く]


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