[携帯モード] [URL送信]

☆special☆
2013.5.5 土方birthday(後編)
2013.5.5 土方birthday(後編)



「く、ぁあああー…っ」

凝り固まった筋肉を解すように首を左右へ倒してから大きく背伸びをした。
綺麗に片付いた書類達に朝日が差し込む。

昨晩、万事屋と別れてから真っ直ぐに帰ってきた屯所の私室。
酒を飲む気にも、眠る気にもなれず、悶々とした思いを抱えながら向かったのは、
山積みになった書類に埋もれた机だった。

考えてどうにかなることならば、いくらでも時間を使う。
が、
どうにもならないことをウダウダと考え続けるのは性に合わない。

脳裏に浮かぶ万事屋での出来事や、アイツへの思いを打ち消すように、
俺は仕事に没頭したのだった。

「どう、すっかなー…」

集中力の成せる業か、仕事も片付いてしまった。
こんな日に限って、完全なオフ。

本当なら今頃万事屋で飯を食っている筈だったのに。

ぐぅ…

思い浮かべたアイツの手料理に反応した胃が、何か食わせろと鳴いた。
疲れていても一向に眠気は訪れないが、飯を食えば眠れるかも知れない。

屯所に居てアレコレ聞かれるのも鬱陶しい。
気分転換を兼ねて外へ食いにでも行くか。

着たままになっていた着流しから隊服へ着替え、見てくれだけはピシャリと整えて屯所の門を潜る。
「副長、おはようございます。見回りですか?」
「おう」

お陰で門番の隊士をさらりとやり過ごすことができてホッとした。

 

のに。

「あれ?土方さん!おはようございます」

なんつータイミングで現れるんだこのメガネは。

「これから銀さんに会うんですか?僕も万事屋に行くんで一緒に行きませんか?」

万事屋に会いにも、行きもしねぇよ。
もう終わったと俺から伝えていいものか悩み、とりあえずタバコに火をつけた。
もともとペラペラ喋る方じゃねぇのが幸いして、不審がられることはなかった。

急に方向を変えるのも憚られ、何となく足並みを揃えて歩き出す。
万事屋まではまだ十分距離も有り、途中でさり気なく別れることは可能だろう。

そんな俺の思いなど知らず、ニコニコしながらメガネが話を続ける。
そう言えば、こいつは俺と万事屋の事をどう思っていたのだろうか。

「あ、そうだ。土方さん今日誕生日なんですよね。おめでとうございます」
「あ、あぁ」
「す、すみません」
「は?」
「一番に銀さんから言って欲しかったですよね。今の取り消してください」

空気が読めるんだか読めないんだか。
チャイナ娘もこんな風に接してくれていたら、なんて、都合のいい思いが浮かんですぐに打ち消した。

「知ってます?銀さん、土方さんの誕生日カレンダーに○つけてるんですよ」
「…え?」
「5月に入ってから毎日カレンダーの前で腕組んで、うんうん唸ってたんです。多分、プレゼントどうしようか悩んでたんでしょうね。ホラあの人お金ないから」

あの万事屋が俺の誕生日をそんなに気にかけてくれてた…?

「資金増やそうとしたのか、3日にパチンコ行って案の定負けたみたいで。ソファで項垂れながら灰になってました。銀さんらしいですよね〜」
「そう、だったのか…」
「はい。僕ね、二人がお付き合いする事になったって聞いて最初はびっくりしたんですけど、でも嬉しかったんです」
「…どうしてだ?」
「土方さんは、銀さんの隣を歩いて行ける人だからです」
「…」
「僕や神楽ちゃんは、いつか万事屋を巣立つ時が来ます。でも土方さんは、ずっと今の距離を保ったまま銀さんと一緒に居てくれるから…だから僕、二人を応援してるんですよ。…神楽ちゃんはちょっと複雑みたいですけど」
「…そう、だな」

今の距離を保ったまま一緒に。
そんなこと、考えたこともなかった。

この距離をどうすべきなのか、どうにもならないこの距離に悩んでいたのだから。

だが、もう遅い。

二人の距離はもう、以前より遠く離れてしまった。

「土方さん。銀さんの事…よろしくお願いします」
「え…?あ、いや…」
「僕が言うのもおかしいですけど、あの人あれで寂しがり屋で、なのにすぐ、自分の大切なモノを手放そうとしてしまうから」
「…」
「だから土方さん、もし銀さんが何か悩んでバカな事言っても、土方さんは手を離さないであげてください。あ、いや勿論、気持ちが離れてしまった場合は仕方ないですけど…土方、さん?」

ピタリと足を止めた俺を不思議そうに見上げ、一歩先でメガネも足を止めた。

真摯な思いで俺達を応援してくれていた気持ちが嬉しくも、申し訳なく。
往来で頭を下げる。

「すまねぇ」
「土方さん?」
「万事屋とは、昨日、別れた」
「…え…――なんで、ですか」

空気が張り詰め、スッと声が低くなる。
それは一人前の男の、声。

嘘は、つけない。

「チャイナ娘に泣かれた。俺の誕生日を祝うのは嫌だと。万事屋を一番に考えられない俺は、認められないんだろ…」
「…それで?」
「万事屋から別れを切り出されてな。神楽を泣かせてまで俺と一緒に居られない、俺を失うよりお前等を失う方が辛い、だとよ」
「土方さんは何て言ったんですか」
「何も」

パンッ!!

乾いた音が空を切り裂き、頬に痛みが奔った。

「すみません…でも、情けないです土方さん」
「仕方ねぇだろ。お前等からアイツは奪えない」
「奪う!?違う!アンタ間違ってる。銀さんが一番じゃない?それがどうしたって言うんです!アンタが一番じゃない?それが何だって言うんですか!勧善懲悪みたいなランキングなんて必要ですか?大事なものが沢山あるのは当たり前じゃないですか。恋人としてお互い一番大切に思っていれば、それでいいじゃないですか!」
「んな簡単なことじゃねぇんだよ」
「じゃぁ悩んでくださいよ。悩み続けてくださいよ。本当に大切な相手なら。それでも一緒に居たい相手じゃなかったんですか?アンタにとって銀さんは、そんな簡単に諦められる存在なんですか?」
「違ぇ。でも、今のアイツがそれがいいと望んだのなら受け入れるしかねぇだろ。大切だからこそ!」
「そんなんだから、そんなんだから…神楽ちゃんはアンタを認めないんです!」

ぶるぶると震える拳を握っって俯き、メガネが唇を強く噛んだ。
俺と、同じように。

「…僕ね、神楽ちゃんの気持ちわかります。銀さんを取られたみたいな寂しい気持ちも。神楽ちゃんは女の子で家族も遠くに離れてるから、きっとその思いは僕より強いと思います」
「ンなことァ、わかってる」
「わかってません。神楽ちゃんも僕も、銀さんには笑っていて欲しいんです。その思いは同じなんです。けどまだ上手く言えなくて、心の折り合いも上手にできなくて、寂しいけど、認めてあげたいって上手く表現できなくて。だからきっと、神楽ちゃんは土方さんを試したんだと思います」

試す…?

「土方さんがどれだけ銀さんの事を思っているか。この先ずっと僕達の分まで銀さんを背負っていく覚悟があるのか」

万事屋を背負っていく、覚悟…。

「土方さん、ちゃんと言いましたか?」
「…何をだ」
「銀さんを大切にするって、自分なりにでいいから大切にするって。銀さんの笑顔を守るって、だから認めて欲しいって言葉に出して神楽ちゃんに伝えましたか?」
「いや…」
「いつか分かってくれる、いつか認めてくれる。勝手にそう思ってたんじゃないですか?」

何も言い返せないでいると、体を反転させザクザクと歩き出す。
言いたいだけ言って、置き去りか。

今更俺に、どうしろと。

今更万事屋に、どんな顔して行きゃいいんだ。
情けねぇが、俺には経験がなくてわからなかった。

 

…だが、このままでいいとは、もう、思わなかった。

そんな俺に、差し伸べられた救いの言葉。

「…かしわ餅」
「は?」
「と、酢昆布」
「…」
「買ってくるように頼まれてます。でも僕お金持ってません」
「…」
「先に万事屋へ行ってますから、必ず買ってきてください。ついでに、ケーキもお願いします」

それだけ言うと、今度は本当に行ってしまった。

「くくく…」

小さくなっていく背中を目で追いながら、思わず漏れた笑い声。

まったくガキってのは恐ろしい。
そりゃ、アイツも手放せねぇ筈だ。

いや、違うか。
アイツの背中見て育ってるってことなんだろう。

アイツも自分以外の事には、ペラペラと正論吐きやがるからな。

ったく、面倒くせぇガキ共を育てやがって。
苦労するのは俺じゃねぇか。

 

だが、まとめて背負ってやるよ。

お陰でひとつ、大人になったからな。

 

 

「何しに来たアルか」

どう話を通したのか、すんなりと万事屋へ入れてもらえた俺を迎えたのは、茶を啜りながら気まずそうにしている万事屋と、ソファに座ったメガネ。
そして仁王立ちしているチャイナ娘だった。

その前に、片膝ずつついて正座する。

大きく息を吸ってから、両手をついて頭を床に擦りつけた。

「坂田銀時を、俺にください!」
「ブホッ!!」
ズルッ

万事屋が茶を噴き、メガネがソファからずり落ちた音がした。
が、構わず言葉を続ける。

「俺ァお前の言う通り、真選組を蔑ろにはできねぇ。けど、一生共に生きていく覚悟は出来てる。可能な限り、だが」
「随分都合がいいネ」
「わかってる。だが、それでも手放せねぇ。手放したくねぇ。だから一つだけ約束する、お前等の大切な万事…銀時の笑顔は必ず守る」
「…」
「だから、銀時を俺に、銀時の未来を俺にくれ」
「ちょ、ちょちょちょちょっと待って土方君。俺ら昨日別れ――」
「俺は承諾してねぇ」
「いや、でも…」
「ガタガタうるせぇ!テメェは俺と一緒にいたいと思わねぇのか。もし、コイツ等が認めてくれるなら一緒に居たいと思わねぇのか!」
「…どうアルか、銀ちゃん」
「どうします?銀さん」
「…なんで俺も責められてんの…ったく…」

ゲンナリとした顔をしながら、ゆっくりと席を立ちのそのそと万事屋が隣に座った。
ただし、胡座、だったが。

「まぁその、なんだ…お前等がいいって言うなら…その…」
「はっきり言うネ!」
「…一緒に、居たい…かな。土方と」
「かなって何だ!煮え切らねぇ野郎だな!」
「仕方ねぇだろ!慣れてねぇんだよこういうのは!」
「俺だって慣れてねぇ!」
「嘘つけ!フォロ方だろ、お前!」
「関係あるかーッ!!」
「うるっさいネーーッ!!」

ダンッと足を鳴らした振動は半端なく、ビクッと仲良く肩を震わせてチャイナ娘を見上げた。
しまった、喧嘩してる場合じゃねぇ。

ダラダラと冷たい汗が背中を伝う。

「お前らが喧嘩したら、折角のパーティが台無しアル!」

え?

「今日はこどもの日ネ!私が主役のパーティアル!」
「いや、神楽ちゃん…僕は…?」
「さっさと準備するヨロシ」
「チャイナ娘…」
「工場長とお呼び」

…いや、それはちょっと…

「お前の為に作った銀ちゃんのケーキは食べたくないけど、でも、お前が買ってきたケーキなら食べてやるアル」
「チャイナ…」
「工場長、アル」
「こ、工場…長…(って、何で工場長?)」
「…銀ちゃん」

アレ、俺の工場長呼びはスルーか?

胡座をかいている万事屋の前に、ゆっくりと工場…チャイナ娘がしゃがんでギュッと抱きついた。
そして、
「銀ちゃん、おめでとうアル」
「…言う相手、違くね?」
「違くないヨ。銀ちゃん、良かったナ。だから、おめでとうネ」
「…さんきゅ…」
「…うんっ」

ぽんぽんと優しく頭を撫で、抱え込むように抱きしめた万事屋の顔は、今まで見たこともないくらい優しい顔をしていた。

少し顔をずらしてから、片眉を歪ませて笑う万事屋を見て俺の頬も緩む。

どうやら認めてもらえたらしい。
受け入れてもらえたらしい。

「土方、誕生日おめでと」
「土方さん、おめでとうございます」

「…神楽」
「…お、めでと、アル。…こどもの日の次に、だけどナ」

素直じゃないところは、万事屋譲り、か。
ほんとに面倒くせぇガキ共だ。

が、

「ありがとう」
「これからも、よろしく。土方」
「ああ。こちらこそよろしくな」

その日もらった面倒くせぇガキ共からの『おめでとう』と、その親玉からの『これからも』という言葉は、
何よりも嬉しい、何にも代え難い、最高の誕生日プレゼントだった――。

 

 

「新八〜行くあるヨ〜」
「え?どこに?」
「にっぶいアルな。だからお前は新八なんだよ」
「新八関係ないし!っていうか、どこ行くの神楽ちゃん」

散々食って飲んで騒いで、長時間宇野に付き合わされたこどもの日(誕生日含む)のパーティ。
そろそろお暇しようかと最後の一服をしていた時だった。

俺より先にソファから立ち上がったチャイナ娘(工場長とはやっぱり呼べない)が、酢昆布を咥えながらメガネの袖をひっぱる。

「コイツ等これから初夜ネ」
「「ゲホッ!!」」
「気を使って二人きりにしてやるのが大人のマナーヨ」
「ちょ、ちょちょ、神楽ちゃぁぁぁん?」
「あ、そうですね」
「お、オイ。メガネ」

引き止めるまもなく、チャイナ娘もメガネもあっという間に玄関を出て行ってしまった。

残されたのは、散らかった食べかすとゴミ。
そして万事屋と、俺。と、二人仲良く手元に残った5枚の宇野カード。

畜生、勝ち逃げか。

 

「な、なんか結婚したみたいな流れになってね…?」
「…だな」
「お、お前が“銀時をください”とか言うからだぞ!」
「俺のせいにするな。マセたガキに教育したのはテメェだろ」
「ハァ〜!?銀さんが教育したのは下ネタだけですぅ!」
「それ教育じゃねぇだろ!」

「「…プッ」」

昨夜のことが嘘みたいなやりとりに、思わず漏れた小さな笑い。

ククク、と笑い続ける万事屋に、コツンとオデコを密着させると至近距離で視線が絡み合い、照れくさくなって今度は苦笑い。

「折角お膳立てだが、どうする?」
「…欲しい?プレゼント」
「…欲しい。…お前が、欲しい」
「この、贅沢者」
 

「いいだろ?今日は俺の誕生日、だからな」

 

カチッ…。
普段より少し早い時間に、万事屋が薄暗くなる。

仄かに漏れる間接照明の光は、
ケーキの上で揺れるロウソクの灯りのようだった。

 

[END]

 




かーらーのR18
[〜5月6日へ続く(*´∀`*)]


[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!