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今年もまた雨が降る。
どれだけ強い雨粒が天から降り注いでも
この日だけは傘を差す気にならない。

むしろ、濡れれば濡れるほど好都合。
この雨は優しさなのかもしれない。アイツは俺を良く知っているから。

「ヒューズ…」

―――Maes Hughes
沢山の花に囲まれた、冷たい石に彫られた名前。
私の掛け替えのない、友。戦友であり、親友であり、悪友でもあった。

「准将。またお前を追い抜いた…。まだまだ駆け上がっていくが、お前、ちゃんと着いて来られるのか?」

今はもう物言わぬ、土の中の彼にそう呟く。
中佐から二階級特進しての准将。一時は大佐である自分を追い抜いて上官になったが、
私は順調に階級をあげ先日少将に昇進した。

これから先、どれだけの月日を重ねても彼が昇進することなどありえないと言うのに。
今もまだ、あの約束を忘れられずにいる。

思わず漏れる苦笑い。
「軟弱者だな、私は。なぁ、ヒューズ。」

「軟弱じゃなくて、無能だっつーの!」
突然後ろから声がして我が目を疑った。
だが、疑いようもない。間違うはずがないのだ、彼の声を。

「鋼の…。」
「ったく。雨の日はただでさえ無能なんだからさー。自分の目からも水垂れ流しちゃダメじゃん。」
「なっ…泣いてなどおらん!」
「へー?その水、涙なんだ。目薬とかじゃなくて?」

ニヤリ。
してやったり顔で見上げられ、言葉に詰まった。
完全に自爆だ。

何か言わなければ益々小馬鹿にされてしまうと言葉を探すが、こんな時に限って何も浮かばない。
しかし、彼はそれ以上、私の涙について触れてくることはなかった。
視線がヒューズの墓へと向いている。何かを決意した時の、焔の点いた目だ。

「俺が、引き継ぐ、から。」
墓を見つめたまま、唐突に言葉を投げかけられる。
「ヒューズ中…准将の言葉、俺が引き継ぐから。」

ポタポタと金色の髪から雨の雫が落ち、彼の頬をも濡らしていた。
ゆっくりとこちらを振り向き、鋼の視線にまっすぐ射抜かれる。。
垂れ落ちる雫を拭いもせず、瞳の焔を強く湛え、一切の迷いも感じさせない。

「軍属じゃないけどさ、アンタの下でもないけどさ、でも、傍で力貸してやる。」
「鋼の…。」
「そりゃヒューズ准将ほど役には立たないかもしんないけど、でも、意外と頼もしいよ?俺。」

そう言って自信ありげに笑う彼を、両腕でしっかり抱きしめた。
濡れているのに、何故か温かい。

「ああ…よく、知っているさ。」
「そか。それなら、良し!」

ヒューズ、お前の変わりなど世界の何処にも居はしない。
だが、別の掛け替えのない存在が、今、ここにある。

雨の日の私は確かに無能だが、世界一の幸せ者だな。

「…ありがとう。」
「どういたしまして!」


額を寄せ合い口付けを交わす。

―――いつのまにか、雨は止んでいた…。


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2012.10.21 エル


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