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拍手お礼文[9]
CLAP9土銀(ほんのり沖→神表現有)



ドサッ
「ぶべ…ッ」

突然スパンッと障子が開いて“何か”が投げ込まれてきた。
その後ろに、小さな万事屋の少女。

「マヨラにあげるアル」
「は?」
「これ」
と傘を指した先には、
「ちょ、神楽っ、何すんだ!痛ぇ…ッ」
涙目になって抗議をする万事屋がいた。

「返品負荷ネ。じゃぁな」
「お、おい!」
「神楽ッ!?」

さっきと同じようにスパンッと音を立て、障子が閉じた。
俺は呆然と。
万事屋は、ハァー…なんて溜息つきながら頭を掻いている。

「どういうことだ。喧嘩でもしたのか」
「してねぇよ。突然むんずと首根っこ掴まれてココに捨てられた」
「理由は――」
一つしか、ねぇか。

少し前からコイツとお付き合いっつーのを始めて、それがチャイナ娘にバレんだろう。
オッサンの恋人同士なんて気持ち悪ぃもんな。
傍に居たくねぇってわけか。

「そんなんじゃねぇよ」
表情から俺の考えを読み取ったのか、万事屋が否定の言葉を吐いてヨイショと立ち上がり一瞬振り返って視線を合わせ、部屋をあとにする。
ついて来い、という事だろう。

“ちょっと出てくる”
短いメールを山崎に送って、万事屋の背中を追いかけた。

今見回りに出てんのは一番隊か…。
総悟のヤツ、またどこかでサボってやがんだろうな。

何故かそんな事が頭に浮かんだ。




「公園で堂々サボリたぁ万事屋は暇でいいねィ」
「それはこっちの台詞ヨ。私はかぶき町の女王アル。テトリス見張るのも仕事のうちネ」
「テリトリーだろィ」

ベンチにちょこんと腰掛けて、まだ幼さの残る足をぷらぷら…。

「さえねぇ顔」
「…うるさい」
「どうせ土方の野郎と、万事屋の旦那の事だろィ?」

腰に差していた刀を抜きながら、総悟は神楽の隣に腰掛けた。
傘の幅分、距離をあけて。
その傘が傾き、顔に濃い影ができる。
俯いた神楽の唇がキュッときつく結ばれるのが目に入り、総悟はハァ〜とため息を吐いた。

「旦那が野郎に取られて寂しいとか、そんなところだろィ。どうせ」
「…バカにすんじゃないネ。お前と一緒にするなヨ」
「いや、俺全然寂しくないんだけど」
むしろ面白ぇ、なんて軽口を叩ける雰囲気ではない。
いつもみたいな喧嘩は出来そうにないとつまらなさを感じながら、それでもこのまま此処を去ることは出来ない。

その理由には、気づかない振りをした。
今はまだ、あの大きな存在に勝てる気がしないから。

現に彼女の頭の中は、その存在で一杯だろう。

「土方の野郎が気に食わねぇなら、手、貸すぜ?」
「お前に借り作るほど落ちぶれちゃいないネ。だけど…」
「やっぱり気に食わなねぇかィ」
コクン。
「…だろうねィ」
「違うヨ。…自分の事が、アル」
「…は?」

予想外の答えに、総悟は首を傾げた。

しばらく無音な時間が続いて、神楽がボソリと本音を呟く。

傘の影に吸い込まれてしまうような、微かな声で。

「足枷は…ごめんヨ…」
「足枷?」

その声を正確に拾って聞き返すと、神楽は言葉を続けた。

小さな手を、ギュッと握って。

「毎日夜中に電話が鳴るネ…マヨラからの、電話。私を起こさないように、ワンコールで銀ちゃんが取って…」
「…へぇ」
土方がマメに電話をすることも意外だが、ワンコールでそれを取る銀時には、もっと驚いた。

神楽を起こさない為というのも確かにあるのだろうが、それだけが理由なら、夜中の電話を止めさせるか、電話線を引っこ抜けば済む話だ。

銀時にならどちらも容易にできるはず。

それをしないと言うことは、つまり。銀時が、土方からの電話を待っている、という事。

意外、だねィ。

心の中で総悟は呟いた。
銀時の方まで、そんなにハマっているとは思っていなかったからだ。

「銀ちゃん、気だるそうに話してるけど…でも…」
「でも…?」
「見てしまったよ…」
「…何をでィ」
「凄く楽しそうに、笑ってた…優しい目、してたヨ」
「…そっか」

優しい目。
つまり、お前等を見るのと同じって事だろィ。
こいつは気づいちゃいないだろうが。

「私わかってしまったアル。毎日電話してる理由」

ぷらぷらと揺れていた足はいつの間にか地に着き、ザラザラと土を削っていた。

「会いたくても、会えないネ。……私がいるから」
「…え?」
「だってそうダロ。私に気を遣って、マヨラはうちに来ない。私を放って、銀ちゃんは会いに行けない。…飲みには行くけど、マヨラとデートには行かない。淫モラルくらい気にしないのに、馬鹿ヨ」
「…いや、そこは流石に俺も気になるっつか、想像したくないでさァ」

いきなりのリアルな言葉に浮かびかけた映像を慌てて打ち消した。

「私、二人の邪魔になってるネ。…銀ちゃんの…足枷、だヨ…」
「あの人がそんな事思うかねィ…」

色んなモン背負い込むのは、性というか、得意技というか。

文句をいいつつも、荷を背負うほど幸せそうに見える。

荷を荷とも思ってないのだろう、本当は。

荷と気づいてないのかも知れない。

「足枷になってるってわかって、る、のに…でも、でも…」

神楽の声が震えて詰まる。

ぽとり。

地面に小さなシミが出来た。

「…ま、だ…、傍にいたいアルぅ…」

ぽとり。
ぽとり。
ぽとり。

土が色褪せる前に次々と落ちてくる透明な雫。

総悟がそれ受け止めようと無意識に手を伸ばし、だが、雫に触れる前に軌道を変えた。

地面に、雫が作ったのとは別の色がついたからだ。

神楽ごと色を変える大きさの。それは、日よけの傘など要らぬ程の大きさ。

「ンなこったろうと思ったぜ」

パッと神楽が傘から顔を出す。

「銀ちゃ…っ」
「ガキが何くだんねーこと悩んでんだ、ばーか」
「旦那ァっ、そいつはちょっと酷ぇんじゃないですかィ?こいつはもうガキじゃ…」

少なくとも自分よりずっと大人として、アンタの為に悩んで、心を痛めてる…ッ

いつもなら決して言わない台詞が溢れる。
気丈な神楽が目の前で泣く姿を見てしまったから。

だが、溢れた思いは口に出す事が出来なかった。

銀時の表情かいつになく真剣だったから。

「…ガキなんだから、まだ保護者が必要なんだよ」
「銀ちゃん…」
「小難しい事なんて考えんじゃねぇ。足枷だろうが、お荷物だろうが、大飯ぐらいだろうが、なんでもいいんだよ。俺達は3人と1匹揃って万事屋、だろ?」
「…い、いの?」
「お前があのハゲんとこ行きてぇってなら、止めねぇよ?」
「嫌アル」
「即答ですか」
「まだ、嫌アル」
「りょーかい」

ポンッと大きな手が、オレンジ色の頭を撫で、いつの間にか神楽の涙は渇いていた。

無論、地面のシミも。

「っつー事で土方」
「…は?」
「毎晩の電話はナシの方向でシクヨロ」
「…はァ!?」

銀時の後ろに立っていた土方は、突然つき付けられた言葉に驚き瞳孔を開いた。
(いつも以上に)

「コールでコイツ、やっぱ起きちまうみたいだからよ」
「あー…そう、だな」
「レディに夜更かしは大敵ネ」
「悪ぃ…」
「だから、来いヨ」
「え?」
「銀ちゃんに会いたくなったら万事屋に来るヨロシ」
「だって。土方」

「「ただし、手土産持って来いよ(ヨ)」」
ニィッと笑う二人の万事屋を見て、土方はカチッとライターを捻り、タバコに火をつけた。
ふぅ〜、と、吐いた煙が風に乗って昇っていく。

「総悟、見回り行くぞ」
「は?」
頓狂な総悟の声には答えず、くるりと背中を向け、
「期待、しとけ」
土方は、タバコを挟んだ右手を高く上げた。




「なにニヤついてんですかィ」
「テメェもな」
「俺は別に…ッ。…でも、お陰で少しわかりやした」
「何が」
「万事屋の、攻略法」

ぽとり。

火の付いたタバコが足元に落ちる。

「テ、テメェまさか」
「は?」
「まさか…ッ…万事屋は、銀時は渡さねぇからなァ!!」
「何気持ち悪ぃ勘違いしてるんですかィ!そっちじゃねぇでさ!」
「…え?」
「…あ」
「お、お前…」
「俺ァ、年上には興味ありません。安心して下せぇ」

ぷっとそっぽを向いた総悟の横で、土方の瞳孔がまた開いた。
(いつも以上に)

「お、おまっ…おまおま、お前まさか、あの冴えねぇメガネに――」

ガチャッ
ドゴォォォォォン!!


「なんだぁ?今の音」
振り向いた肩越しにモクモクと煙が上がっていた。
そんな事などまるで気にも留めず、神楽はぴょんぴょんと跳ねるように銀時の隣を並んで歩く。

「ね、銀ちゃん」
「んぁ?」
「晩ごはん、すき焼きがいいネ」
「あー…土方に高級和牛でも頼んどくか」
「乳臭い味に興味ないアル。豚肉がいいネ!」
「んだよ〜。すき焼きつったら普通牛肉だろうが」
「私がいる間は豚肉よ。だから、ずーっと万事屋のすき焼きは、豚肉!」

ぎゅっと大きな手を握って、神楽が下からにこっと笑った。
「へいへい」
ぼりぼりと頭を掻く銀時は、気だるそうな瞳を空へと向けて、だが、口元は微かに緩んでいる。
いつもと変わらない。
何も、変わらない。

土方という新しい存在が追加されても、この笑顔はきっとずっと変わらない。

神楽も、銀時も。
おそらく、万事屋で待ちぼうけを食らっている1人と1匹も。

「野菜だけ買って帰ぇるか」
「酢昆布も忘れんなヨ」
「それは野菜じゃねぇ、海草だろ」
「ケチケチすんなヨ!」

あとしばらく。
もう少し。

このぬるま湯の中で。

温まった体が、巣立つその日まで。

-----------
[END]
拍手有難うございました(〃ω〃)
2013.5.25 空知センセ、はぴばー!!
たくみ(改名)[END]


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