あたしね、あなたが好きだった(サスケ)
アカデミー卒業試験。
朝、目を覚まして呆けながらそんなことを思い出した。
「れんげー早く起きなさい。今日は試験の日でしょー!」
お母さんがドアの向こうで通り過ぎながらわたしに話し掛けてくる声が聞こえた。そうだ、今日はちゃんと行かなければいかない。けれど、動きたくなかった。
今日でたぶん、彼とは会えなくなる。彼は優秀だし、わたしは平凡だ。いや、それより下かもしれない。
なかなか部屋から出てこないわたしに痺れを切らしたのか、お母さんがドアを開けた。
「れんげ!いいかげんにしなさい!…あら、起きてたの、なら早く用意しなさい」
わたしは小さく返事した。お母さんはわたしの気持ちを知らない。彼を好きなこと。
彼は女子にとても人気で、わたしなんかは遠くから眺めているしかできなかった。大胆に話し掛けたり、何かを渡すなんてとてもできなかった。
そうだ、たとえわたしが今日、アカデミーに行かなくても、彼は行くだろう。そうして、確実に試験に合格して、はい、さよなら、だ。そんなことを考えると、わたしは体を動かさざるをえなかった。
「れんげ、ほら、ちょっと遅れてるわよ」
「…うん」
お父さんはもう朝ご飯を食べていて終わるころだった。わたしはお父さんの前に座り、いつも通りにご飯を食べた。
歯をみがいて、顔を洗って、いつもより髪の毛を整えてかわいくして、いつもの服を着た。鏡の中に立つわたしは少しだけ顔が暗い。
「大丈夫、いつもよりかわいいわ。笑顔でいなきゃ、台無しでしょ」
荷物を手早くまとめて、わたしはアカデミーへ向かった。少し遅くなったから、走っていく。
アカデミーに着くと、ちょうど先生が来たところだった。間に合ったことに、ほっとため息をもらす。
「ほらー皆席につけー!」
イルカ先生が教卓に立って声をあげると皆は慌てて席に着いた。とたんに静かになる教室。
「みんな、分かっていると思うが今日はアカデミー卒業試験だ。みんな、今までやってきたことを全力で出し切るように」
ちらりと彼を見ると、いつもと変わらない落ち着いた様子だった。
「で…卒業試験は分身の術にする。呼ばれたものは一人ずつ隣の部屋に来るように」
そう言ったイルカ先生は早速一人目を呼んで、その人と一緒にこの教室を出て行った。
誰一人、話をしなかったから、教室はひどく緊張していた。わたしも、いろいろな感情が合わさって、緊張してるんだか悲しいんだかわけがわからなくなった。
「次――シロヤマれんげ」
びくり、とわたしは震えてしまった。まさかもう次が自分の番だったなんて。
「シロヤマー?」
「…っはい!」
わたしは急いで隣の教室に移った。
「では、どうぞ」
目の前にイルカ先生とミズキ先生が居るのを見て、今さらになって緊張が出てきた。けどわたしはこらえて分身の術をする。
「分身の術!」
ぼふんと煙が立って出てきたのは二人のわたし。
「よし、合格!よくがんばったな、シロヤマ!」
「…はい!」
額当てをもらってわたしは嬉しいまま部屋をでた。
外に出るとみんながわいわいと騒いでいた。どうやらみんな受かったようだ。
「れんげ!どうだった?」
わたしもみんなにつられて嬉しくなっているとすみれが声をかけてきた。わたしはにっこりと答える。
「合格したよ!すみれは?」
「あたしも合格!」
やったねと二人で手を取り合って騒いでいるとすみれのお母さんが来て、すみれは帰っていった。
手を振って見送っていると、その先にちらりと黒い服の彼が見えた。女子達の輪の中で無表情で立っていて、ピンク色の髪をした女の子が積極的にしゃべりかけている。わたしは心臓の辺りがつんと悲しくなった。
さっきまでの嬉しさなんかさっぱり忘れて彼を見ていると、彼は誰かに呼び出されて、どこかに消えていった。きっと告白するんだろう。
わたしもそうしようかと思った。だけど、そんな勇気なんか出てくるはずも無くて、今こうして悲しみにさいなまれている。
ざざと風が吹いて持っていた額当ての布が揺れた。わたしはどうしたらいいんだろう。
顔を上げると影から彼と女の子が出てきた。女の子は泣いていた。でも笑顔で別れていた。
わたしにはあんなことできない。
――忘れてしまえたら、楽になるんだろうか。ううん、きっとここまで好きになってしまったら、胸に焼き付いて離れない。
「れんげー!」
お母さんが走りながらやってきた。
「ごめんなさい、送れちゃって。どうだったの?」
わたしは笑ってお母さんに抱きついた。
あたしね、あなたが好きだった
(そしてこれからも、かわらない)
(でも、答えはわかりきってる)
・・・・・・・・・・
RYTHEMさんのbitter&sweetを聞いて思い浮かんだものです´_`**
一万お礼夢はネタが見つかったのでもう少し待っていただけたらと思います…;;(誰も待ってねぇよ
ちなみに、このタイトルは自分のサイトからのものだったりします**
20080325
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