雨に待ち人(ナルト)
いつもと違う気配がして、窓を振り向いてみると雨が降っていた。

「雨…迎えに行かなきゃ」

私は読んでいた本にしおりをはさんで急いで身支度をし、傘を持って部屋を飛び出した。

ばたばたと降っている雨に、しばらくは止みそうにないな、とか思いながらひとつ傘を広げる。

傘を打つ雨の音を楽しみながら、それほど遠くない道のりを歩いていく。大きいのもあるだろうが、すぐに目的の建物が見えた。

水溜りと人々――忍たちを避けながら入り口に到着し、傘を立てかけて彼の居るであろう部屋を目指した。

「よおれんげ!どうしたんだよ?今日は休みだって喜んでなかったか?」

階段を上ろうとしたその先、目の前に知り合いが現れた。

「キバ!うん、今日は休みだけど、火影様、迎えに来たの」

そう言うと彼はにやりと笑った。

「そうか…きっと喜ぶぜ」

意味がわからない笑みを続けたまま彼は、じゃあな、と言って去っていった。

とりあえず火影室の前に来ると、中から唸り声やら物を動かす音やらとなにやら騒々しい。不審に思いつつ、ノックして扉を開けると中で白い紙が舞った。

「な…何これ?」

「あ、れんげ!?悪いんだけどちょっと手伝ってくれない!?」

目の前をあわただしく過ぎ去ったサクラに唐突に言われ、何を、と訊き返す間もなく彼女は書類の山に消えた。

部屋の中は壮絶だった。広いはずであろう火影室は書類の山に占領され、人一人分通れるくらいの隙間がかろうじてあり、動き回るたびに山から落ちてきた書類が舞う。

とにかくどうにかしなければいけないのは分かるが、どう手をつければよいか分からないので部屋の主に訊いてみることにした。

書類の向こうにちらりと見えた金髪に話し掛ける。

「ナルト!?これどうしたの!?」

すると唸り声は止み、次に私の名前を呼ぶ声が聞こえ、それから書類が崩れた。

「うわぁ!!?」

その崩れは山をひとつ二つ崩した後おさまり、ナルトの姿をあらわした。横では顔を覆ったシカマルと黙々と何かを書いているサスケが居た。彼はどうやら無視を決め込んでいるみたいだ。

「れんげ!どうした?」

嬉しそうにナルトは笑って、書類の崩れた山を飛び越えて私のもとにやってきた。

「雨、降ってきたから迎えに来たの。それより、これどうしたの」

彼は私の問いに答えずにぎゅうと私に抱きついた。彼の背は私より頭ひとつ分高くなって、火影であることを表す服は少しよれよれになっている。

「れんげー!れんげだってばっ」

彼は甘えたいときには昔の言葉遣いになっている。私はそれに微笑みながら背をなでた。それで、これはどういう騒ぎなの、と私はもう一度訊く。

んーこれね、とようやく答えてくれると思った時、崩れたおかげで見渡しが良くなった部屋の隅からサクラが現れる。

「部屋を整理しようとしたらこれだけ書類が出てきて――」

「ちょっとナルトーーー!!!?これなんなのォ!」

ん?と振り向いたナルトに冷たいシカマルの声が言う。

「ナルトがやった」

ぴくりとサクラの青筋が立った気がした。

「まあまあサクラ、落ち着いて。私も手伝うから」

「いいよ、れんげ、影分身するから」

「するんだったら始めからしなさい!」

サクラがしかったがナルトはそ知らぬ顔で影分身を三人ほど出していた。

「まったく…れんげが来たらきゅうに強気になるんだから…」

サクラは大きなため息をつきながら書類の山に消えていった。

「じゃあ、れんげ、俺達は――」

「おい、ナルト、サインくれ」

今まで静かだったサスケが一枚の紙をひらりと出して言うと、片付け始めていた影分身が私の隣に居るナルト――オリジナルのほうを見た。

ナルトは、おう、と答えるともう一人影分身を出し、私の手を引いて部屋を後にした。


「でも、ほんとに良かったの?」

立てかけておいた傘2本を取って1本ナルトに渡しながら訊く。雨足はさっきと変わることなくざあざあ降っている。

「ん?大丈夫。また戻るから」

少し申し訳なさそうな顔をして、傘を開こうとした手は私の傘を持った。

「一緒に入ろう」

私はにっこりと、もちろん、と返事して、二人でひとつの傘に入った。

家への帰り道、雨はぱたぱたと水溜りをはねつづけている。それを横目に流しながら、ね、ちょっとだけ散歩しない、とナルトに提案した。

「でも家はすぐそこだけど?」

「うん、ちょっとだけ遠回り」

じゃあ、と彼は笑った。ちょっとだけならな。

目の前に来ていた家を通り過ぎる。

「れんげは雨になるとすぐ散歩に行きたがるな」

そうだねぇ、と返事しながらもどうしようもなく嬉しくて緩んでしまう頬を止められない。

雨は大好きだ。周りの音とか存在とか、すべてをその自身で隠してしまう。それがひどく安心するのだった。やさしく、私を世界から隔離する。

ナルトと二人で会話も途切れ途切れに歩いていると、子供が、あ、火影様だあ、と言ってナルトに挨拶して去っていく。ナルトも子供のように挨拶を返す。

そんなことが何回か続いた後、ナルトが私の名前を呼んだ。

「悪い、面倒事が起こったみたいだ」

そう、と私はいつものように返し、ナルトから傘を受け取る。

「またあとでね」

彼は笑顔で私の頭を一度くしゃりとなでて、瞬身で消えた。

もう少しだけ散歩をして、家に帰ろう。それから晩御飯の用意をして、彼からの連絡を待って、また迎えに行こう。

まだ止みそうにない雨に、私はにっこりと微笑んだ。

















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ナルトはヒロインを待ってて、ヒロインもナルトを待つっていう。分かりにくいですね;
なんつーか、ナルトの口調おかしいような気がしないでもない。
…お粗末さまでした´∪`
20080320


あきゅろす。
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