カカオ45%のワルツ(スレナル)
今日は朝起きたときから虫の居所が悪い。なーんかいらいらするんだよなあ。この天気のよさがさらにいらいらさせられている気がする。
だからだ、とわたしは思い込むことにした。いつものことなのに、今日だけいらいらするというのはなんか変だ。
たぶん半目になってるわたしの目線の先には、やたらに明るいナルトとそれをあしらうようにしてなんとなくそのまま付き合ってるサクラ。
きいいーー!なんなの、なんなの!
「どうかしたのか?ナルトを睨んでるみたいだが」
隣にいるサスケがそんなに興味がなさそうに訊いてくる。どうでもいいなら訊いてこなければいいのに。
とか思いながらも、ずっとナルトを見ていた。ちらりとナルトが視線をよこす。それでもわたしはそらさない。
「うん、なんかいらいらする。よくわかんないけど」
たぶん聞こえてるだろうなあと思っても、とくにどうもしない。聞かれても困らない。むしろ聞いてもらって一緒に問題解決してほしいくらいだ。
ナルトは少しだけこっちを見てから、すぐにまたサクラに話しかけ始めた。わたしといてたらあんなに話をしてくれないのに。
サスケからの反応はなかった。本当にどうでもいいんだろう。なんなの、興味ないなら訊かないでよね!
ナルトがあきらめずに話しかけ続けると、サクラも無視できなくなってきたのか、普通に話し始めた。それから楽しそうに話しあっていて、サクラが苦笑なりとも笑ったから、わたしのがまんの限界が終わった。
もう知らない、とつぶやいてから、わたしは表情を変えないまま、とことこと二人に近づいた。楽しそうな話し声が聞こえてきて、なんだか悲しくなってくる。
会話の終わりなんて気にせず、わたしはそこに割り込んだ。
「ナルト」
二人がわたしを見てくる。サクラは少しびっくりした様子、ナルトはきょとんとしている。
「なんだってば?」
「ちょっと来て」
がっしりナルトの右手をつかんで、サクラと引き剥がした。ずんずんずんとサクラを気にせずサクラから離れていく。
「でもれんげ!そろそろカカシ先生来るってばよ?」
「そんなの知らない」
は?という顔をわたしに向けたが、わたしはスルーした。ナルトの手をつかんだまま、サクラとサスケの視界に入らないような木に隠れる。
止まってナルトを見ると、どうしたんだよれんげ、といった。本当に怪訝そうだ。
「悪かったね、サクラとの楽しい時間を邪魔して」
「は?」
わたしはそれ以上何も言えず黙ってしまい、ナルトもびっくりしたような顔のままで何もいわない。サクラが嬉しそうにサスケに話しかけにいく声が聞こえてきた。そうすると、少しだけ気が楽になった。
むっつりと、話し出す機会を逃したまま黙っていたら、大丈夫か、とナルトが訊いてきた。
「知らない」突き放すような言い方に自分で驚いたが、本当にわからないのだ。
「知らないって、おまえ…」
なんかよく分からないもやもやを、ナルトにぶつけられそうになかったから、わたしはうつむいた。すぐそこにナルトの足が見える、と思ったら、ナルトの顔がわたしを覗き込んできた。
「なんか今日ヘンだぞ?来たときからずーっとイライラして…」
体の体重を後ろに寄せて、それはわるうござんしたね、と声を大きくして言って、わたしは橋に戻った。ちょうど、カカシ先生が来てサクラに叱られているところだった。
今日の任務は一ヶ月に一回ある上流のほうの川の掃除だった。
任務の場所に着き、適当な説明もなく、カカシ先生は、じゃあどんどんやっちゃってー、とだけ言い残し、木の上に行ってしまった。どうせまたイチャパラでも読んでるんだろう。まったく使えない上司である。
いつものことなのにそこでまたイラッとしながらも、任務を始めることにした。早くやれば、それだけ任務も終わるのが早くなる。
ナルトはサクラのほうに行ってしまった。カカシ先生が消えたと思ったらすぐにサクラのほうに嬉しそうに走っていって、話を始めている。サクラは、しかし、しっかりしているもので、ゴミ袋をナルトに渡して、自分はごみを集めながらナルトをあしらっている。
ゴミ袋を受け取ったはいいものの、肝心の任務にまったく手をつけず、やたらとサクラに話しかけているナルトは、サクラの一喝を受けた。曰く「あんたも手を動かしなさいよね!」。ナルトはしぶしぶとごみを集め始めた。
ほんの5分くらいのものだったが、わたしはその一部始終を見ていた。とりあえず、ゴミ袋を片手に。
優秀なサスケはとっとと自分だけでも掃除を始めていた。れんげ、早くやらないと終わらねーぞ、と2回ほど声をかけられて、3回目に名前を呼ばれたときにやっと気づいた。
「何?」
めんどくさそうな表情をしていた。「掃除やれよ。早く終わらせるぞ」
「ああ、うん」
それから、むりやり、ナルトとサクラのほうを見ないようにした。
今日の任務は珍しくこれで終わりだった。とはいっても、かなり広い範囲で川岸を掃除していたから、今は日暮れどきだ。そしてわたしたちはもう十分くたくたになっていた。
「みんなお疲れ様!それじゃーカイサン!」
やたらに明るい声で軽く言った先生はさっさとどろんして消え去った。もくもくとしている煙をイライラしながらにらみつけてしまった。まったく、ほんとに疲れたんだから。
それでもナルトは元気にサクラをデエトに誘っていた。ねえねえサクラちゃん、これから疲れをとばすのに甘いものでも食べに行かない?
サクラは本当に疲れた様子で、行かないわよ家でおとなしくしてるわ、といって、サスケにしっかり別れの挨拶をし、わたしにもじゃあねと言ってからそそくさと帰っていってしまった。家へと帰る足取りが重そうに見える。サスケも何もいわずにすっと家に帰ってしまった。
「んじゃあ、俺らも帰るかー」
間延びした声を出しながら、ぐっと伸びをした。それからわたしを振り返って、少しだけ微笑んだ。
「さすがに疲れただろ」
うん、とわたしは笑ってみた。それでも疲れでうまく笑えてる気がしない。
「おー、疲れてるなあ。どっか食べに行くか?」
そういわれて、さっきサクラを誘っていたナルトを思い出した。それにつられて、ずるずると任務のときのナルトとサクラを思い出した。それから任務前のナルトとサクラ、それにイライラしてたわたし。
いっきにバツが悪くなって、わたしは強い口調でナルトにたたきつけた。
「サクラと行けばいいでしょ!」
「え?いや、サクラちゃんには断られたし」
ないにその言い草!断られなかったら行ったの、と問いただしたくなる。だけど、そんなことはまったく意味がないということはわかっていた。たとえナルトが誘ってもサクラが行くはずないし、そもそもナルトはサクラが好きなわけではない。
ぐるぐるといろんなことを考えて、答えが出ないところを堂々巡りしてしまって、いやになった。
「もういい」
ぷいと子供みたいにすねてナルトから顔をそらした。自分でもどうしたらいいのかわからない気持ちだ。ここはおとなしく家に帰って、この状態が過ぎるのを待とう。
右足を出したときに、ふきだして笑い出す声が聞こえた。ぴたり、と右足を出したままとまって、ぐるりと振り向く。口元をおさえて、金色のきれいな色の髪を揺らしながら笑っているナルトがいた。
「なによ」
ぶすりとした声でわたしは訊く。気づかないうちに口がとんがっていた。あわてて元に戻す。
「ふくく…!そんなに怒らなくてもいいだろ」
笑っている。何がそんなにおかしいのだろう。そもそも、わたしは怒っていない。
「別に、怒ってない」
ただ、なんか分からないイライラをもてあましてるだけだ。
「いーや、怒ってるって」
「怒ってない」
「怒ってる」
「怒ってないってば」
「怒ってるんだよ」
しぶといな…。
「…なんでそう思うの」
ナルトはまだ笑いながら、サクラだよ、とのたまった。
「おまえ、アイツにやきもちやいてんだろ」
やきもち。嫉妬。サクラに。わたしが。
「そうなのか」
驚きだ。でも、そうすると、このイライラは説明がつく、のか…?
「そうだよ。サクラと話してっとやたら見てくるし睨んでくるし、不機嫌オーラびしびし出してるからな」
心当たりがありすぎて、言葉につまってしまった。わたしのそんな心の状況なんかすべてお見通しで、ナルトはにこにことうれしそうに笑っている。…なんか、負けたみたいで悔しい。
「まあまあ、機嫌直せって。俺が好きなのはお前だけだし」
ぽんぽんとわたしの頭をなでながらさらっという。こんなことされたら、どんな状態でも心がうれしくなって落ち着かずにはいられない。
すっかりナルトに言いくるめられたわたしは、そのことがなんとなく悔しくて、また意味もなくぶすっとしてしまった。
「ならその大好きな彼女とデートはしないんですか」
いいかげん頭をぽすぽすするのを止めて、ナルトは歩き出した。
「デートかあ」
わたしをかえりみずに迷うことなく歩いていってしまうナルトにいらっとするが、わたしは小走りでナルトのそばまで行った。
「今から行くか?」
「夕飯の買出しでしょ」
「…まあそうだけど」
思わずため息をついてしまった。
「べつにさ、遊園地に行こうとかそういうのじゃないから、二人で出かけたいなって思って…」
「どこに?」
「…木の葉で」
ぴたりとナルトがとまる。商店街に向かっていたわたしたちは、他に商店街に向かう人たちの流れの中で止まってしまった。今は夕飯時なので、人がすごく多い。がやがやと人の話し声がうるさい。
それでも、川の中の岩のようになる前に、ナルトは歩き出した。例に漏れず、わたしはついていく。
「俺の状況分かってるよな?」
サクラちゃんが好きなのはどべのナルトで、どべのナルトは本当のナルトじゃない。本当はすごく強くて、そしてわたしと付き合っている。
「でもそろそろいいんじゃないかって火影さまが言ってた」
今度はナルトがため息をついた。
「意味わかんねえ」
ひどく渋った声だ。
「ナルト、最近は悟りきっちゃってるでしょ?昔は機会さえあれば嬉々として軽く里をつぶしそうだったのに」
がやがや、がやがや。今生きていて、生活をしている人たちがわたしたちの横を通り過ぎていく。お店で商売をしている人がいる。楽しそうに話す人がいる。親に一生懸命ついてこうとしている子供がいる。
このたくさんの命の意味が、最近のナルトでは解り始めているのではないかと火影さまはおっしゃっていた。たとえ自分を殺そうとしていた人の命でも。
「まあな…。それで?」
「だから、もう大丈夫なんじゃないかって」
「誰が」
「ナルトが。どべの皮をかぶらなくても、里の人たちと普通に接することができるんじゃないかって」
「…」
返事がないのでひょいとナルトの顔を覗き込むと、ふいとそらされた。でも一瞬見えた顔は、すごく複雑そうに、考えてます、というような顔だった。
まだまだ里の中では冷たく当たる人もいるが、10数年前のことである。そんなことをするのは時代遅れの老人がするようなことになってきている。
「わたしがいるんだし、里の人に嫌われてても、わたしがその分ナルトを大好きなら、ぜんぜん問題ないでしょ?」
ふは、と空気が抜けたようなため息が聞こえて、ぽんとわたしの頭の上にナルトの手がのった。
「ずいぶんかわいいこと言ってくれるなあ。まあ、考えとく」
さっきの難しい顔は消えて穏やかな表情になっていた。そのことにほっとしながらも、ほんとに考えるのかなあと疑問を持ってしまう。
「さて、じゃあ晩ご飯の買い物という名のデートにでも行きますか」
しょうがないなあ、ちゃんとしたデートはまたにしてあげる、さっきまでの負け犬のような感じはどこへやら、優越感を持って言ってみた。
「はいはい。ありがとうございます」
ふざけて笑いながらナルトが言った。
カカオ45%のワルツ
(でもきっと、ナルトといれるなら、たぶんどこでも楽しいんだ)
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今年ももう終わりですね!!(涙目
今だに来ていただいてる皆さん、ほんとにありがとうございます…m(;_;)m(遺言ではない
20121231
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