ナイトメアー(サスケ)


月さえも顔を出さない夜、星だけが明るくて、足元はおぼろげではっきりしない闇がしっとりとおりている。

サスケは私をじっと見つめている。彼は私にけっして触れようとしない。暗いせいでこんなに近づかないと相手が確認できない今でさえ、だ。

私はそっとその白い肌にふれようと、サスケに、手を伸ばす。だが彼は何かを呟いて、躊躇なく私から離れた。

どうして、と叫んで、私は走り出した。けれど闇が私のもがきをあざ笑い、サスケは一人で遠く離れていく。私がどれだけ体を動かしても体は進まずに、サスケだけがゆっくりと離れていく。

待って待って、サスケをとらないで、と言ってみても闇が音を吸収して声にならない。闇はますます愉快そうに深くなり、じわじわとサスケを取り込んでいく。

このままじゃだめだ、と私はさらにあがく。汗が体中からふきだしてべったりとはりつく。サスケの後ろ姿があやふやになっていく。だめよ、待って、待って。

「待って!」

私の叫びがはっきりと聞こえた。息が詰まって大きく空気をすうと、なんだ、という声が左側から聞こえた。

心臓がたたかれたように驚いて、左を向いてみると、部屋のドアから出ようとするサスケがいた。

「サスケ…?」

「どうした」

部屋の中は、今日は満月らしい、月の光が窓からあふれて、ほのぐらい。けれど開けかけているドアの向こうには真っ黒な空間がある。

「どこに、行くの」

きちんとしゃべれている、と思うと同時にあれは夢だったのだ、と思い知らされた。しゃべれないなんて現実ではありえない。当たり前のように、あれは悪夢だったのだ。

「…」

サスケは答えなかった。

夢の余韻で嫌な感情が体中にうずまいているのに、サスケのその沈黙がさらに私をかき乱す。ぐるぐると悲しみや切なさや執着、不安が倍増する。

「今、何時なの」

「…夜中だ、早く寝ろ」

そっけなく答えて、はっきりと見えない顔をドアのほうに向けたとき、私はもう一度、どこに行くの、と叫んでいた。自分でも思いがけない、すがるような頼りない声だった。

サスケはちらりとこっちを見て、ドアを開けた。

私は慌ててはねおきてサスケをひきとめようとする。けれどサスケは私にもう見向きもせずドアの向こうに行った。彼が、その黒い髪が真っ先に、顔も腕も何もかもが、闇に溶ける。

待って、と出ない声をふりきるように手をのばしたが、届くはずもなく、ドアが静かに閉まった。

どうして、と私はもう一度言おうとしたが、喉に詰まって音にならなかった。目が熱くなって、伸ばしていた手を目元にもってくると、つと何かが頬をすべり落ちた。

のどが嗚咽をもらしてぱたりと足の上にしずくが落ちる。月の光にかたどられた自分の影を見てみてもはっきりと見えない。もうすべてがおぼろげでわからない。

私はもう何もせずにただ涙を流した。








(まさか現実で見るなんて)









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いつぐらいの時期の話なんだろうね…汗
20080610


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