月と夜(スレナル)


満月が真上にある夜の中。

星は不思議なほどに見えず、わたしは部屋の中でぼうっと夜を眺めていた。

といっても、周りに建物があって、空ぐらいしか見えない。建物はたいがい民家で、こんな夜中に起きている人はいないようだ。わたしもそれに同乗して部屋は暗い。わたしは起きてるけど。

部屋で一番大きな窓に乗りかかって空を見上げる。窓を大きく開け放して、虫なんか気にせずに。

月はそこにぽんとある。悲しげだとは思ったことがない。ただただきれいだとしか考えられない。夜にふさわしいその美しさと、孤独感。

いつもいつも先に帰ってろといわれるがわたしは一度もそうしたことはない。やっぱり彼の帰りをきちんと待ってあげたい。ああ一人だ、と現実を押し付けられるんじゃなく、呆れられるほうが絶対いい、とわたしは思っている。

結局いつもいつもそうして起きていて帰ってきた彼を出迎えて、彼に家まで送ってもらうんだけど。

寝不足は自分にとって悪いと思う。けどこの時間が好きだし、彼のためになってると思う。自分の考えだけど。

任務の集合時間に遅刻したって変わらないし――なんたって上司のほうが遅刻魔だ――この方が元気が出るような気がする。

夜の空気は相変わらず動かなくて、でも時折不安げな風が強く吹く。そのたびにわたしは自分の髪をよける。

こんな夜になれたらどんなにかいいだろうと思っていた。いまでもそうだ。なったからってとくに何もないだろうが、きっと気分がいい。月を尻目にひゅるひゅるとそこらじゅうを動き回る。そんなことができればなあ。

手を伸ばしてみる。けれどそれは夜に溶けることなく月明かりにぼうっと浮かび上がる。

風がまたひとつ強く吹いてわたしが体を引っ込めると、お前なあ、と心底呆れたような声が窓の向こうから聞こえた。

そこには闇に溶けそうな、けれども金髪がそれを拒絶している、彼が居た。

「おかえり」

寝ぼけつつ彼にそう言うと少し間を置いて、それから下を向いて、ああ、と呟いた。

「まあ入りなよ」

わたしは今自分がいるベッドのところをぽんぽんと叩いて示した。ほらほら、さっさとここに来なさい。

不満げな顔をしつつも素直にベッドの上に座った彼にわたしはぎゅっとしがみついた。返り血は多分浴びていないのに、ひどい血のにおい。

「ねむいー」

「だったら帰れよ」

冷たい言いようだが何の嫌気もない声だったので、わたしはまた安心した。

彼から少しはなれて金髪を眺める。本当に彼はおかしな人だ。闇のようなのに金髪だなんて。わたしは黒髪なのに闇には決してなれないのに。

そっと幻のようにきらきら輝くその髪に指を通した。じっさい幻だったと思う。なにせわたしは本当に眠たかったから。

今日はもうここで眠ってもいいや、と思った。また彼に怒られるかもしれない、と現実があいまいになり始めた頭で考える。

「ナルト」

「ん?」

「寝ていい?」

わたしは半分寝ながら、彼にもたれながら訊いた。

彼はわたしの頭をなでて、ああもうこれでぐっすり眠ってしまう、と思った時、おやすみと彼が言った。

わたしは少しだけ笑って、眠った。







(一日の終わりはあなたの腕の中で)









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短い…
2万ヒットになる前にもりもり更新しなければ!
20080528


あきゅろす。
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