マニキュア(サスケ、現代パラレル)
一種の願掛けのようなものだった。
少しだけ変わったと自分を錯覚させて、その気になって、彼を振り向かせられたら、とそのくらいの気でしかなかった。だから、普段つけもしないマニキュアを、少し黄色っぽいオレンジのそれを一生懸命に塗った。
けれど結果を言ってしまうと、負けてしまった。
所詮自分は自分だし、少し変わったところであまり意味は無かったのだ。
自分への苛立ちと、失恋の痛手と、人間に対する不信感と、面白くも無い授業を繰り広げている教師にわたしは鬱になりそうだった。
ちらりと想い人だった彼を盗み見る。彼は学年中の女子から絶大な人気を誇っていて、それはそれは、わたしが話し掛けられたのは奇跡だった。
でも、たまたま掃除の班が同じだったので、話す機会はいくらでもあったといえるかもしれない。そのときも、ごくごく普通の、話すのが必要で当たり前のものだった。
「なんで、誰もいないんだっけ…?」
週末の掃除で、わたしはいつものように掃除を始めようとすると、教室に人っ子一人居ないことに気がついた。なんだか騒がしいとは思っていたが、こんなことになってるなんて。
「あ、そういえば…」
たしか、何かのイベントがあったことを思い出した。わたしはそんなものに興味が無いから、すっかり忘れていた。
「まあ、一人でてきとうにやればいっか」
そうすれば一応やったことには入る。
ほうきを持って、端から適当に掃いていると人の来る気配がして顔をあげると、彼が居た。
「…シロヤマ一人か?」
びくり、とわたしの心臓が跳ねた。まさか苗字を覚えてもらっているなんて。一気に緊張しながらわたしはなるべく平静を保つように、返事する。
「あ…うん」
ああ、もう。わたしは自分の弱さを呪った。一言しか返せないなんて。
会話が途切れたのでわたしは、場を繕うように、掃除を始めた。下を向いて今度はなるべく顔を上げないためにきちきちと掃いていく。
彼が歩く足音が聞こえて、掃除道具をとりだす気配がした。彼はイベントには行かないんだろうか。少し程度気にはなったが、わざわざ口に出すほどのことでもないので無視して掃除を続ける。
ここから早く抜け出すために、きちきちと、手早く、掃いていく。
彼がやるであろう範囲を残して、わたしはちりとりをとりに行き、ゴミを取った。彼が終わるのを見計らって、彼の分のゴミも取る。
悪い、と言った彼にわたしは小さく頷き、ゴミを捨てる。
それから道具を片付けて、彼は一言もいわず教室を去っていった。
これがわたしに起こった奇跡だ。
でもその奇跡を生かせないわたしはとんでもないほどの馬鹿だが、そのときは緊張で何も考えられなかったからそんなことも思い浮かばなかった。
運が良かったあとは不幸が起こる。
その次の日、彼が女の子と一緒に帰っているのを見かけたのだ。大勢人が居る中で、堂々と。
女の子は桃色の髪で、とてもとてもかわいらしかった。わたしと比じゃないくらい。彼の黒色の髪によく映えた彼女の雰囲気に、わたしの失恋は確定した。
「シロヤマー、ここ分かるかー」
びくり、とわたしの心臓は嫌な驚きをした。
黒板を見ると、さっきよりだいぶ内容が進んでいて、長い間呆けていたことが思い知らされる。
「…わかりません」
仕方なくそう答えると、しっかりしろよーもうすぐ受験なんだからな、と教師は他の生徒を当てた。
窓の外を眺めると、暮れかかったまぶしい太陽が見えて、思わず目を細めた。オレンジ色の光がそこらじゅうを突き刺す。
わたしは、自分はどうしてここに居るんだろう、と不意に思った。夕日のようにはっきりしない、あやふやな自分。そんな自分がこんなところで勉強して、何か意味があるんだろうか。
しかし考えたところで答えは出るはずもなかった。
どういう結論に至ってもわたしはここで授業を受けなければならないし、だから結論を見つけたところで何かが変わるわけでもなさそうだ。
夕日から目をそらしてすっと自分の手元を見た。あのばかばかしいマニキュアはまだつけてある。すぐに取ったら不審に感じられると思ったからだ。
もうこれ以降、この色はつけなくなるだろう。
マニキュア
(でもいつかこれがいい思い出になって、この色が恋しくなればいいな)
・・・・・・・・・・
ただいまの時間、am1:17。
すごいよ自分、こんな夜中に起きてるなんて!っていう状況で書き上げました激しく突発。短いです、名前変換無いです…なんか「あたしね、…」とかぶる感じですが、こっちはもうちょっと大人でプラスな思考、だと思われます。
お粗末さまでした´u`…早く寝よう。
20080514
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