03
れんげ。
自分の名前が呼ばれたような気がして意識を叩き起こす。
「れんげ」
今度ははっきり耳元で聞こえたその声が耳慣れたものだったのであたしはまだ起きたくないという気持ちを込めて、んー、と唸った。
「脱がすぞ」
その言葉に完全に覚醒したあたしはばっと起きようとしたが、どうやら腕を押さえ付けられているらしく起き上がれなかった。
「ちょ、冗談でしょ!?」
だいたいなんで腕を押さえ付けられてるんだかさっぱりだ。
にこりともしないサスケは依然、あたしを見ている。馬乗りしているような気がするのは気のせいなのか?
「本気なの…?」
声をかけてもぴくりともしない彼に、あたしは冷や汗をかいてしまう。
外はまだ薄暗く、部屋の中も海のなかに落ちてしまったようにぼんやりと明るい。
「ねぇ、サスケ、何なの」
するとすっと彼の顔が近づいてきて耳元で止まった。
「見せたいものがある。来てくれるか」
あまりにもいつものサスケと違う台詞なのであたしは拍子抜けした。
「ほんとにサスケ…?」
「――ったく」
ため息とともにそう吐き出すと、いったんあたしから離れ、もう本当にサスケなのか殴りたくなってしまうくらいだった、サスケがあたしをお姫さま抱っこした。
「寒いから毛布持っていけ」
そう言ってあたしに毛布をかぶせてくれるサスケのほうが寒々しいんだけど。
外、といっても宿の屋上に出て来ただけだった。
サスケの言った通りそこは風が強く、毛布からはみ出た手足に冷たくあたってはすぐ通り抜けていく。
「サスケ寒くないの」
大丈夫だ、とある方向をみて目を離さず答える。
なんだろうと見てみると、その方向の空は他よりも明るく、しばらくすると光の欠片が姿を現した。
「ぅゎ…きれい――」
サスケに降ろしてもらい、屋上のフェンスまで駆け寄る。その間もきらきらした輝きがどんどん大きくなっていく。
毛布をかぶり込んでしばらく日の出を見、真ん丸になったところで後ろを振り向いた。
「すっごいきれいだった。あんなの、初めて見たよ」
あたしがそういうとサスケはふんわり微笑んだ。
あたしいつも牢屋の中だったから。だから見せてくれたのだろうか。
「ありがとう、サスケ」
・・・・・・・・・・
(おまけ)
でもなんであたしだけつれてきてくれたの、と訊くと、水月を連れてきたらよかったのか、と言われ、あたしは思わず、嫌だなぁ、と呟いた。
「香燐は興味なさそうだしな」
「たしかに…重吾は?重吾だったらすごい感激してくれると思うけど」
「…れんげは何かあると重吾だな」
「そう?まぁ重吾優しいし」
「…」
「え、何、どうしたの、そんなに眉間にしわ寄せて」
「……」
哀れ、サスケ。
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