06
叫び声が聞こえる。
あたしはそれを助けようとしたが手が届かずに目の前のそれは血にまみれて次々と倒れていく。
あたしはただ叫ぶことしかできなかった、もうそれ以外道は残されなかったのだ。
ふっと意識が戻って目を覚ますと、ぼんやりと部屋全体が白々しく、夜ではないことがわかった。
じっと天井を見つめる。
背中は汗でじっとりと濡れ、額の汗は手でぬぐう。
今ごろあんなことを思い出したってしょうがないのだ、あたしは過去を胸の奥にじっと押し込めた。
かちゃりとドアが開くような音がして、静かに水月が入ってきた。
「あれ、起きてたんだ」
あたしは憎々しく言った。
「サスケのおかげで最低な夢を見たから」
ふーんと言いながら彼はあたしに近づいて言う。調子はどう。
「…普通」
水月は向かいのベッドに座る。
「まさかれんげがいきなりあんなことを言い出すとは思わなかったよ」
あたしはしばらく一族の仇のために大蛇丸を殺したかったことを言うべきか否か迷った。
「まぁ、仇だったからね、あたしが大蛇丸を殺したかった」
水月は何も答えなかった。
窓が開いているのか、湿った空気があたしを通り過ぎる。
雨かなと窓を見ようとしたとき、ドアが開いてサスケが入ってきた。
「水月、ここで何やってる」
れんげの見舞いだよ、と水月は事も無げに答えた。なんとなく、サスケの機嫌がよくないように感じるのは気のせいだろうか。
あたしはベッドから降りてカーテンを開いた。空が素早く雲に覆われていっているのが見えた。
「暁のアジトを探しにいけ」
いささか語調強く、サスケは言った。あたしは彼を見なかったが、どうやら本当に機嫌が悪いらしい。
それを感じ取ったのか、水月は、はいはい、と言って早々に部屋を出て行った。――何をやらかしたんだか。
雲はもはや空の果てまで覆い尽くし、ぽつりとあたしの頬にしぐれた。すると間もなく音をたたせて降り始める雨。
「機嫌悪いの?」
あたしが振り返るとまったく自然な動作でサスケに引き寄せられてベッドに座った。
「何なの」
そっとあたしの髪をなで始めたサスケにあたしは思わず呟いた。
しかしサスケは答えない。しっとりと寒天のような沈黙に雨の音が入り込む。
あたしはどうしていいか解らなかったのでただ彼が何か言い出すのを待っていたが、やがてあたしの頬に手を添えて彼は静かに言った。
「イタチの居場所は何処だ」
ぱたぱたとあたしの指の先に雨が当たった。そういえば窓を閉めるのを忘れている。
「なんのこと?」
あたしは白を切った。でもこれは嘘ではない。
「おまえは一度、暁のアジトに行ったことがあるだろう」
「覚えてない、そんなこと」
あたしは窓を閉めようとサスケの手をのけたがその手はあたしの腰に回った。じわり、と彼の眼が赤くなり始める。
「誘われたんだろ、イタチに」
あたしはサスケを見た。何の感情も含んでないような表情に見えるが、本当はどれだけの憎しみを隠しているかと思うと不気味だった。
「そんなの、知らない」
彼の眼を見ているとずきんと頭に痛みが走ってあたしは思わず顔をしかめた。
「隠す必要がどこにある?」
「隠してなんかない。言う必要ないでしょ」
するとさらに頭の痛みが激しくなり、ついにあたしは頭を抱えたが、サスケはあたしに彼の眼を見せさせるようにあたしの顔を上げさせた。
「オレを怒らせたいのか?」
「――アナタが来て一年くらいしたころ…」
あたしは限界が来てついそう口を滑らすと、サスケはあたしを離した。
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