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0日目
ああ、怖かった。

私は今更、自分を睨み付けた二つの瞳を思い返して身震いをした。

今思えば自分は無茶苦茶な勇気を振り絞ったなと思う。今もう一度同じ事をしてこようなど、思うだけでも背筋が凍るような感覚が走るのに。

……。駄目だ駄目だ。

私はペンを動かす手を少し休めて、あの瞳を振り払うように頭を振ると、ほとんど手付かずの教材にむかった。



…―また獄寺くんが一位だよ


…―んで、また二位が早瀬さんか


「っ…」


努力しなくても一番な天才、獄寺隼人。

どれだけ頑張っても二番な堅物、早瀬碧。


不良だって言われてるのに頭は良くて、…格好良くてそんな獄寺くんはみんなに持て囃される。

けど、私は獄寺くんの比較材料。


「…はぁ、」


ついに勉強なんて手に付かないと思った私は席を立ち、ベランダに出た。

時折肌を打つ風があまりにも冷たくて、カーディガンを強く握り締めると白く染まった息を追って空を見上げる。


今日の空は、雲一つないくせに星の姿は無かった。
月明かりだけがぼんやりと、見下ろす街の輪郭をなぞるように降りてきていた。

ふう、ともう一度だけ息を吐いて柵に身を預け目を閉じる。

暗く閉ざした世界に、声が谺した。


…―やる気ないんじゃない?


…―所詮天才には適わないんだよね



あの日の高笑いは、きっと一生忘れる事はないだろう。


私は無意識に口唇を強く噛むと、ゆっくり目を開けた。

外気が湿った瞳にツン、と凍み、月明かりが目に届くが早いか、私は部屋に飛び込んだ。


カシャン、と小さな余韻が追い掛けてくるとそろそろ頭が冴えてきて、私は机へと戻った。



明日になったら、学校中に噂は広まっているだろう。
…だけど今更知ったことか。


静かな闘志を胸に、勉強は朝方まで続いた。

そうじゃなくても、今夜はとても眠れそうにない。




学年末試験まで、後14



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あきゅろす。
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