季節SS
B
ゆっくりまったりと歩きながら色々な話をした。
「ここら辺なら案内できるよ。」
「ホントっ?ん、行く行く!」
あてもなくフラフラと…あっちに行ったりこっちに行ったり。
その最中も俺達は手を繋いだままで。
「ここは…涼菜が自転車で落ちた階段。」
大葉が指差した先は…家一軒分くらいの高さがありそうな長い階段。
「こっ…ここから落ちたの!?」
「ああ。」
「良く…無事だったね?」
呆然と階段を見下ろしてる俺の手を引いてまた歩きだして…。
「ここの公園で…拓真が上級生を相手にケンカして大変な事になったんだ。」
「…大変な事?ボコボコにされちゃったの?」
「いやその逆。俺達が野球してたらサッカーやるって横入りしてきた連中を、な。」
サッカー…って事は最低でも十一人はいたって事だよね!?
驚きに声が出ない俺を見つめて大葉が笑う。
「そしてここが…。」
ピタッと足を止めた先は一度だけきた事のあるスーパーで。
「芹と初めてきたスーパーだよ。」
ドキン、と胸が高鳴る。
「え…え?俺とが…初めてだったの!?」
嬉しそうに笑いコクンと頷いた大葉が繋いだ手に力を込めた。
「そう、初めてだ。あそこのソフトクリームも芹と初めて食べた。」
「え…じゃああそこの公園にも…?」
「芹と初めて。」
「じゃ、じゃあ…」
言葉を続けようとした唇に大葉がキスしてきて…そして。
「芹と一緒に過ごしてこれて俺は幸せだよ。」
優しい瞳で俺を見つめてもう一度、唇にキスをくれて。
「これからもたくさんの思い出を作ろうな。俺と、太一と二人でさ?」
ドキドキと高鳴る心臓の音がすンごいうるさいのに…大葉が俺を呼ぶ声はちゃんとはっきりと聞こえる。
「俺と…これから先もゆっくりだけど一緒に歩いて欲しいんだ。」
目頭がジワッ…って熱くなって目からポロッと粒がこぼれ落ちた。
胸が熱くて頬も熱い。
回らない頭で考えるのは…これから先の俺と大葉の姿。
…だから。
「…太一?」
名前を呼ばれて…その逞しい胸にギュッとしがみ着いて。
「良介の未来に…俺の居場所も作ってね。」
上手く言えないけど…それだけは思っていて欲しいから。
クスッと笑い大葉が俺の髪を優しく撫でて…。
「太一は…ずっと俺の隣りだよ。」
近付いてくるキレイに整った顔を見つめて瞳を閉じる。
そして…ゆっくりと唇が重なった。
―END―
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