K I R I B A N
2
コーヒーと昼食をとりソファに戻ってきて先に腰をおろす、と。
「なんだ、ベッドじゃねぇのかよ。」
「…だから裸じゃないから。」
冗談なんだか本気だか分からない台詞に苦笑いを返す。
「で、俺はどこでどんなカッコすりゃいいんだ?」
なぜかとても協力的な拓真を見上げて…座ってるソファの左隣をポン、とたたいて。
「ここに座って?」
そう言う。
なにも語らず腰をおろす拓真の右手にそっと触れて。
「右手、お借りします。」
そう言って拓真の右の膝の上に置いた。
「高ぇぜ?」
「そう思う。」
実際のところこの人は相当な高給取りだし…とか思ってる、と。
スッ。
「!」
拓真の膝の上に置いておいた手が…俺の膝の上に移動してきた。
「た…」
「こっちの方が近ぇだろ。」
そう言って撫でてくる。
「…やらしいこと、しないでよ?」
「しねぇよ、多分。」
ニヤニヤしてる恋人を疑いの視線で見上げて溜め息をひとつ。
…お願いしてる分際じゃ文句は言えないか。
セクハラが始まる前に早いとこ終わらせよう。
そう思いながら俺は鉛筆をギュッと握り締めた。
◇◆◇◆◇
静かなリビングに鉛筆が紙の上を走る音だけが響く。
心配していた以上に拓真は静かで大人しい。
ちゃんとTPOが分かるようになったんだな……なんて年上相手に生意気にも思ったりして。
膝の上に置かれたキレイな手をみつめながら白い紙の上に線を描く。
大きいけどゴツゴツしてない文字通りしなやかな手。
指が細くて長くて爪もカタチがよくて…今更だけど細部に至るまでこんなにもキレイで。
つくづく神様って不公平だな、なんて思っていると…不意に視線を感じてそっちをチラと見た。
「ん?どうかした?」
「…なんかムラムラする。」
「………は?」
突然なにを言い出すかと思ったら。
パチパチとさせる視界にヌッと現れたイイ男の顔が段々と近付いてきて…。
「ちょっ…」
「お前…色っぽ過ぎ。」
唇に拓真のが重ねられた。
バサッ。
描き途中のスケッチブックがカーペットの上に落ちる。
「……ぅ…」
小さく唸る俺の息までも吸い尽くす程の強引なキスに身体が痺れたみたいに動けなくて。
「とも……」
耳元で甘く呼ばれ俺は返事の変わりにゆっくりと瞳を閉じた。
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