K I R I B A N





広いベッドの中で目が覚め無意識に伸ばした右手が冷たいシーツの上に落ちる。

「たく…?」

そこを何度か撫でてからけだるい身体を起こして枕元にたたまれている…夕べ脱がされたパジャマの上着に袖を通した。

部屋の中に拓真のいる気配はない。

首を傾げながらベッドから下り、下着とズボンを身に着けてフラつく足取りでベッドルームを出た。




明るい廊下を歩きリビングへ通じるすりガラスのドアを開ける。
眩しく暖かな陽射しが差し込む室内に入るとふわりとコーヒーの香りがして。

「おはよう。」

そしてそこにはソファに腰掛けて新聞を読んでいる拓真がいた。

「お、はよ。」

そう返すと拓真はかけていた眼鏡を外して読んでいた新聞をたたんで。

「コーヒー飲むだろ?」

ゆっくりと立ち上がって俺の側まできて唇にキスをくれた。

「あ、うん。」
「いれ直すから座ってろよ。」

すれ違う時に背中をトンと押され、俺はオープンキッチンの向かいに備えつけてるカウンター席に座る。

「モカでいいのか?」
「うん。」

慣れた手つきでコーヒーメーカーのセットをする拓真をみつめて暖かな気持ちになった。

「なにニヤニヤしてんだよ。」

カウンターに頬杖を付いている俺に呆れ顔を向けながら拓真がそう言う。
俺は小さく笑って大事な恋人をみつめながら。

「ホントに拓真はいい旦那さんになるよな…って思って。」
「だからもうなってんだろ?」

顔色ひとつ変えずにそう言う拓真に熱い顔を向ける。

「お前は年中俺にそう言うが俺はお前以外のヤツにそう思われたくねぇ。」



ピシッ。



こっちに向かって伸びてきた指先が俺の鼻の頭を弾く。

「お前にだからこんな事してやんだよ。」

"分かったか!"
…と言った拓真はおとし終わったコーヒーを俺のマグに注いでくれながらチラとこっちを見て。

「お前は後にも先にも俺にとって紛れもなく『特別』な存在なんだからな。ありがたく思え。」

久々の俺サマ発言に思わず吹き出してしまう。

付き合い始めの頃に比べたら…今の拓真はとても優しくて穏やかで。
前の拓真も好きだけど…今の拓真は輪をかけて好き。
というより日、一日と好きになっていくんだ。

そんな事を思いながら愛しい人をみつめていれてもらったばかりのコーヒーのマグに唇を寄せた。





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あきゅろす。
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