K I R I B A N




どんなにゆっくり歩こうが、どんなに絵に夢中になろうが…かかったって精々三十分もありゃ終わるだろう規模の絵画展を出たのはそれから一時間も後だった。

まあ…
その間中、初めて見るような智の色んな顔見れたし抵抗するヤツに無理矢理グッズを買ってやる事にも成功したしでボチボチ楽しめた…が。
やっと入ったサ店で席に座るなりそのパンフレットを開くのもどうかと。

「…智。」

名を呼ぶとパンフから顔を上げた智は慌ててそれを鞄にしまい照れたように笑い。

「ゴメンね。」

ペコッと頭を下げてメニューを開いた。

「何にしようかな…」
「俺はいつもの。」

そう言ってテーブルに片肘を付き掌にアゴを乗せて可愛い恋人をガン見。
すると…その熱い視線が気になるのか智は顔をメニューで覆い隠した。



グイッ。



もちろんそれをこの俺が許すハズもなくメニューの上部に掛けた指を引いてそれを前に倒して。

「隠すな。」
「だって…」

真っ赤になってる智の可愛い顔を見て…ゾクゾクする。

「…んな顔すんなよ。抱きたくなる。」

一段と赤くなる可愛い顔を見つめながら俺の中の抱きたいという欲望はむくむくと膨れ上がっていく。

…が。

「今日は家に帰るまでお預けな約束だったな。」

溜め息交じりでそう言いメニューから指を離す。
すると智は戸惑った様子でしばらく俺を見てから。

「次に行く予定の映画…まだしばらくはやってるよね?」

そう小さく呟き、やって来たウエイトレスに俺のコーヒーと自分のパスタセットを注文して…。

「これ食べたら…すぐ帰ろ?」

赤い顔でそう言って…テーブルの上の俺の手を握った。





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あきゅろす。
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