K I R I B A N




電車に揺られながらすぐ隣に並んで立つ愛しい恋人を見つめる。

「ん、なに?」

その視線に気付いて上向けた顔を見下ろしながら…自分の頬の緩み具合を知った。

「やべぇ…すっげニヤニヤしてんな、俺?」

苦笑いをする俺を見上げながら智は。

「俺も多分ニヤニヤしてるから一緒だよ。」

そう言ってふんわりと笑った。


…可愛いな。


今更ながらにそう思う。
俺の恋人は他の誰の目にもさらしたくない程に可愛くてキレイで。
なのに…どこかでこの存在を見せびらかしたいような気分になっちまう。

「俺ってちっちぇ。」
「?」

キョトンとする智を見つめながら周りの乗客から見えない角度でキスをした。

「なっ…!」

真っ赤になった智が抵抗するのと同時に電車が止まりドアが開く。

「さ、行くぞ。」

可愛い智の握った手を引き俺達は目指す駅へと降り立った。







◇◆◇◆◇







俺の恋人はなかなか自分の要求を口にしない。
コッチが何かをしてやりたくても欲しい物を言うでもなく、したい事を言うでもない。

まぁ…
口にしたらまず確実に俺が手を出すからそれを警戒して言わないっつのもあんだろうけど。

智の全てを愛してるが唯一ソコだけが俺の不満が募るトコだ。
だから今回のこのデートも、智がどことなく興味を示していた絵画展をさりげなくチラつかせてみた。

『え、ホント?うん行きたい!』

誘いをかけ…ヒットしたあの時の笑顔は、今思い出しても股間に響く程に可愛い笑顔だった。
そんな事を思い出しながら手にしたチケットを受け付けに差し出した。

「お前、絵が好きだったんだな?」

半券を渡しながらそう言うと智は変わらずふわりと笑いながら。

「ううん。この画家の絵が好きなんだ。」

そう言って壁に掛けられている絵を食い入るように見始める。
初めて見る程のそんな智の真剣な熱い眼差しを隣で見ながら俺は“ミレー”サンに軽く嫉妬した。





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あきゅろす。
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