K I R I B A N

‐智SIDE










とある土曜日の午後。
俺は駅への道のりをひたすらに走っていた。

夕べ、俺の大事な恋人から久し振りにデートの提案があった。
いつもはインドアな俺達だからたまには外で…と常日頃から思っている俺はそれに飛び付き、今こうしてその待ち合わせ場所へと向かっている。

「電車でのデートなんて久し振りだ。」

呟きながら頬が緩む。

拓真と付き合いだしてからもうだいぶ経つのに“待ち合わせから始まるデート”は数える程しかしていない。

まあ…

身体から始まった関係だし何より一緒に暮らしているんだから仕方ないか。
…と思いながらも俺も人並みにデートとかしたいという欲求はいつもどこかにあって。
そんな俺の気持ちに気付いてか、拓真はたまにこうしてサプライズな“待ち合わせデート”を企画してくれる。

いつの間にか俺はそれを心のどこかで期待したりしてるんだ。







◇◆◇◆◇







駅前に近付くとなぜかどこかしこでフワフワとしたピンクのオーラが飛び交っていた。

何事か…と改札付近に目をやると。

「…なるほど。」

そこには俺の大事な人が立っていた。


ストーンウォッシュのジーンズにシンプルな白いスリムのTシャツ。
それに俺のプレゼントした鍵トップ付きのネックレスと腕時計…ってだけのスタイルなのにどうしてこうも素敵なんだろう。

ピンクのオーラの間を俯き気味に歩きながら今更ながら、拓真のかっこ良さにドキドキしていた。

「智。」

優しい声と共に手が握られて熱い顔を向ければ…口の端をクッと上げた拓真と目があって。

「洗濯、お疲れ。」
「あ、うん。遅くなってごめ…」

言いかけた唇が拓真に塞がれ思わず飛びのいた。

「なにっ、ここ、公衆の…」
「俺をお前だけのモノにしておきてぇんならこんくらいしろよ。」

はた、と気付くとさっきまで飛び交っていたピンクのオーラがなくなりその主達は何事もなかったかのように動き始めてて。

「俺に逆ナンかけようとしてた女共、お前が相手じゃ敵わねぇと思ってやめたんだろ。」
「逆ナン…」

唖然とする俺の唇をもう一度拓真が塞いだ。

「まあ、お前以上にキレイなヤツなんていねぇけどな。」

そう言って嬉しそうに笑う拓真を見上げて思わずキュンとしてしまう。
そんな自分に苦笑いをしながら繋がれてる手にホンの少し力を込めた。





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あきゅろす。
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