K I R I B A N

‐良介SIDE










開けたドアの先には…とてつもなく不機嫌そうな顔をした拓真が仁王立ちをしていた。

「…あー…」
「便所に立て篭もってもう一時間だ。あと五分でケリつけろ。」

不機嫌…は、どうやらとっくに限界を越えているらしい。
組んでいる拓真の腕に添えられた指先が小刻みに動きイライラの度合いを物語る。

俺は苦笑いを浮かべて問題の場所に向かった。

「しかし…なんでトイレなんだ。」

ぼやいた俺の後ろから大きな溜め息。

「和美と涼菜が旅行の土産持ってきたトコに芹が現れて会議中のお前との一悶着を話したんだ。したらヤツら調子に乗って芹のヤツをあおりやがってよ。」

…あいつらめ。

自分の母と妹だから嫌という程、性格が分かる。
それだけに…なんとも言えない気分になる。

「んで、盛り上がったヤツは智を人質に立て篭もったっつー訳だ。」
「あー……」

なるほど、と思いつつ素朴な疑問が浮かぶ。

「…止めれなかったのか?」

こんなに線の細い我が兄貴だがその強さは半端じゃない。
なのに芹のこの行動を抑制出来ないなんて…。

「アホ親子の排除には成功したが、ドアぶち破ろうとしたら智がお前を呼べと言ったんでな。」

ムッとしながらそう言う拓真を見上げ、屈強なこの男をたった一言で抑制できる久遠は…実は最強なんじゃないかと思い俺は苦笑いを浮かべた。







◇◆◇◆◇







コンコン。



木製のドアを叩きフッと息を吐いて。

「芹、俺だ。」

そう声をかける。
すると中から何やらゴソゴソと音が聞こえてきて。



シーン。



と物音が消える。
はあ、と溜め息を吐き背中にグサグサと突き刺さる拓真の眼力に寒気を覚えながら。

「芹…さっきはすまなかった。小松にも言われたんだが…」
『小松くんに言われたから来たの?』
「いや、拓真に…」



シーン…。



…沈黙。



「あのな、あの時ああ言ったのは…」
『分かってるよ、大葉は委員長だもん俺なんかに…』
「“なんか”とか言うな!」



ドンッ!!



トイレのドアを壊しそうな勢いで叩いてから…ハッと我に返る。

「だから……俺はあの時『後で』と言ったが本当は『後でゆっくり』と言いたかったんだ。」

ふぅ、と溜め息。

「説明を聞きにくる奴等が多いのは始めから分かっていたから、芹と秦修司には俺と小松がそれぞれ教えると言う事になっていてだな…」



ガチャッ!



話の途中にドアが開き中から久遠が顔を出した。

すると後ろから伸びてきた腕が俺の真横を通り過ぎ、ドアをガッと開いてその久遠を引き出して…。



ドン。



…と、代わりに俺がその中に押し込まれた。

「大葉…」
「芹…」



バタン!



可愛い恋人と見つめ合うと同時に背後のドア閉められ、俺と芹はなんとなく気恥ずかしい思いでぎこちなく笑いあった。





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あきゅろす。
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