K I R I B A N
4
信じらんない!
信じらんない!!
擦れ違う人がみんな見てくじゃない!
それも好奇心ランランな目で!
「やだ、佐古!下ろしてっ!!」
「黙れ。」
逃げまくってたのにもかかわらずついに正面玄関で捕獲された僕は、追っ手の佐古に『お姫様抱っこ』をされながら廊下を進んでいるわけで…。
「俺は今すこぶる機嫌が悪い。」
ボソッと呟く佐古は…初めてなくらいに相当怒ってる。
そうさせたのは…僕なんだけど。
シュンとした僕は口をギュッとつぐみ組んだ両手をお腹の上に乗せてジッとする。
…どこに行くのかな。
僕…どうなっちゃうのかな。
不安で堪らずキツく目を閉じて体を強張らせた。
トン。
歩き続けていた佐古の足が止まり下に下ろされる。
目を開けた先は…僕らの棟の一階の一番奥の階段の下。
「ちくしょ…。」
低く唸ると佐古はその場に座り両足を前に伸ばした。
僕はその姿をチラチラと見ながらただモジモジしていて。
「…ごめんな。」
かけられた声に驚いて佐古を見下ろす。
「なんで…」
「バカバカ言って悪かったよ。」
立てた膝にヒジを置いて掌でうなだれた額を覆う。
そんな仕種さえカッコ良くて思わず見とれてしまった。
「…聞いてんの?」
「あ、ゴメ…うん、え…もういいよ。」
慌てる僕を見上げて佐古がフッと笑う。
僕はその隣に腰を下ろしてキレイに整った顔を見上げた。
「僕こそ…せっかく助けてくれたのにあんな…ごめんなさい。」
そう言ってペコンと頭を下げる。
すると…そのままキュッと抱き締められてこめかみに唇が寄せられて。
「あの連呼には度肝を抜かれたよ。」
そう言って佐古はクスッと笑った。
「ゴメン…」
「まさかあれを楓に言われるとはな。」
…おっしゃる通りです。
ホントにこの人は頭良いんだもん僕があんな…捨て台詞とはいえ、ねぇ?
…苦笑い。
ふと目を向けた佐古のズボンの裾が汚れていた。
それを何の気なしにポンポンと叩くと。
「…いって!」
思いがけず上がった声に驚いて佐古を見上げる。
苦痛に歪んだキレイな顔を見ながら掴んだズボンの裾を引き上げた。
「佐古…腫れてる!」
「…ああ。」
僕の手を外させて裾を下ろすと佐古は何事もなかったみたいな顔して僕を見つめる。
でも…あの足首はちょっと見でも分かるくらいプクッと腫れてて。
「僕を助けてくれた時に、だよね?」
佐古は何も答えず表情を変えないまま僕を見つめる。
僕は佐古の手を掴んで立ち上がって。
「保健室、いこ!」
そう言ってその手を引いた。
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