K I R I B A N
2
寮を出て学校へと向かう道の途中で見上げる佐古。
いつもと変わらないその優しい笑顔を見ながら胸がほんわりと暖かくなる。
つくづく…僕は佐古が好きなんだなぁって思って一人で頬を赤くした。
…すると。
「楓っ!!」
普段ではとてもじゃないけど聞けないような佐古の僕を呼ぶ…と言うか叫ぶ声がして。
キキキッ!
ぼんやりしてる目の端っこに…赤い物体が飛び込んできた。
「…へ?」
そっちに目を向けた途端に体がふわりと浮き上がって…。
ドサッ!
僕は地面に倒れ落ちた。
『気を付けろ!バカ野郎っ!!』
「テメェこそ気を付けやがれ!」
頭上で発せられる荒々しい僕の恋人の声。
目の前には黒いアスファルトが広がっていて…でも何がなんだか分からない僕はその場でひたすら瞬きを繰り返した。
「楓!おい楓!!」
その視界に佐古が現れ目が合う。
「楓…」
「ん、はい…」
僕の返事に一瞬ホッと頬を緩めた佐古はその次の瞬間、物凄く…物凄く怖い顔をして。
「このバカ!道を歩く時白線の中に入るってのは常識だろうが!」
…と怒鳴られた。
極々至近距離でバカよばわりされてあげく怒鳴られて。
それが引きがねとなり今朝の食堂での出来事を思い出してしまった僕は、素直に謝る事もお礼を言うことも出来なくなってしまった。
そして…更に悪いことに僕らしからぬ変なスイッチまでもが入ってしまって。
「ば…バカバカって言わないでよ!」
……と、逆ギレをしてしまった。
その場でスクッと立ち上がった僕は地面に片ヒザをついてる佐古に向かって。
「佐古の…バカバカバカっ!」
…と、意味不明なダメ押しのバカを連発しながらそこから走り去った。
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