K I R I B A N
3
電車に乗り込み進行方向に向かって右側のドアに寄り掛かり、流れて行く外の景色に目を向ける。
すぐ隣の駅との丁度間辺りに位置する最近オープンしたばかりの豆腐料理専門店の『豆楼』。
前に一緒に電車に乗った時、智が行ってみたいと言ってたから今日はそこで待ち合わせをしているわけで…。
「…ん?」
車窓を眺めて…果てしなく違和感。
なんか電気点いてなくねぇか?
窓にへばりついて更にガン見をすると…どうやら店休らしくシャッターが閉まっていて。
「マジかよ。」
小さく唸りコートの内ポケットから携帯を取り出してフラップを開く。
そしてペア機能に登録してある智に電話をかけた。
聞こえてくる耳障りな着うたに顔をしかめるが…曲も半ばになろうってのに電話が繋がる様子は全くない。
俺は舌打ちをひとつしてから黙ってフラップを閉じた。
◇◆◇◆◇
駅を下り猛ダッシュで『豆楼』に向かったがどこにも智はいなかった。
途中、冷たい雨が降り出しもしかしたら『ジーマニ』に戻っているんじゃないかと思い顔を出してみる…と。
「あれ拓真…お前智ちゃんとデートじゃないの??」
我が友、奏多に言われて俺は苦笑いを返した。
今までの経緯を話しカウンターに両手を付いてデカい溜め息を吐く。
するとヤツは…その妙に可愛らしい顔をしかめ、カラコン入りの碧い瞳を俺に向けて。
「…『まめろう』だろ?」
「ああ『豆楼』だ。」
「だから『まめろう』だろ?」
「…お前ケンカ売ってんの…」
という会話をしながらその意味に気付き、俺はそのまま『ジーマニ』を飛び出した。
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