K I R I B A N

‐良介SIDE










頬に添えた俺の手を握ったまま芹は静かな寝息を立てる。

「…いかんだろ。」

恋人の安心しきった可愛い顔を見つめて胸が大きく震える。


―昨日。

委員会の会議の最中に結構な量の雨が降り出した。
そのタイミングで帰った芹を心配していたが…途中で小雨になり、あっと言う間に止んだ。

どこかで雨宿りをしていてくれれば…確実に濡れずに済んだはず。
それを祈りながら会議終了の後、正面玄関へと向かった。

―なのに。

『大葉っ!お疲れ様!』

晴れ渡る空を背に…文字通り頭から爪先までをぐっしょりと濡らした芹が傘を二本持って立っていた。

『…芹…』

『大葉が濡れちゃうとヤだから傘持って急いできたのに…』

そう話してる間にも前髪から雫がポタポタと落ちてはコンクリートの床に染みを作る。
俺は…。

『何をしてるんだ!』

キョトンとする芹の腕を掴み引き寄せ大股で歩きだし…


ドンドンドンドン…


厚いカーテンが閉まっている意味を知りながら購買部のガラス戸を力任せに叩き続けた。

すると…ほどなくして上半身裸の我が兄貴が怒り心頭な様子でそのドアを開けるなり。

『テメェ!どういうつもりだ……ってなんだそのズブ濡れは。』

鋭い目が芹を捉えた瞬間丸くなり呆れた顔付きに変わる。
そのまま何も言わず中に俺達を促すと…拓真は奥部屋へと消えていった。

『…お邪魔だったんじゃないの?』

困ったような声を上げる芹をチラとだけ見て掴んでる腕を引き寄せる。
それと同時に奥部屋のドアが勢いよく開き中からタオルとジャージを抱えた久遠が飛び出してきた。


そして…借りたジャージに着替えた芹を連れて寮に戻る途中。

『…っくしゅん!』

何度もくしゃみをする芹を見つめ俺は不安で不安で仕方がなかった。

案の定、今朝になったら芹は風邪をひいてしまっていて…俺は…俺の為にそうさせてしまった事を後悔せずにはいられなかった。





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あきゅろす。
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