K I R I B A N
5
元々は知らない者同士。
しかもこの人の第一印象なんて最低最悪…だったハズなのに今はこんなにも近しく頼もしい存在で。
「…不思議だな。」
「あ゛?」
少し先を歩くその足が俺の小さな呟きで止まる。
俺サマが…最近何気に恋人の久遠どころか【仲間内】の俺達にまで過保護になっているような気がしてならない。
そして、そんなシーンに遭遇する度あの人と俺達との信頼関係がどんどん強くなってきているのもまた事実。
人同士って…本当に不思議だ。
訝し気に俺を見やり眉をグッと寄せる俺サマを見返す…と。
「佐古ぉ!!」
購買のガラス戸の前で両手をブンブンと振り大声で俺の名を呼ぶ楓の姿があって…。
「珍し…あんな大声出して…?」
「よっぽど嬉しかったんだろうよ。」
「…え??」
嬉しい?
…何が?
全く見当の付かない俺の背中を俺サマが力任せにバンッ!と叩いた。
「とっとと行け。」
そう言われ可愛い恋人の元に走り寄れば…益々の笑顔が俺を出迎えてくれて。
「はい、これ。」
手渡されたキレイな包みはほんのりと温かい。
「これ…なに?」
そう尋ねながらも鼻を刺激する甘い香りに…正体は薄々分かっていたりする。
「久遠と二人で作ったんだ!」
「へぇ…楓の処女作?」
「うん!手作りのブラウニーだよ!」
…はは。
俺の可愛い楓チャンの初めての手料理が俺の苦手なスウィーツだなんて。
苦笑いをしつつ…ひとつ溜め息。
「こら西野!ちゃんと説明しなきゃダメだろ?」
ニコニコ顔の楓の後ろで俺サマに抱き締められている久遠がそう言って笑って。
「あ!そうでした…あのね、このブラウニーは甘いのダメな佐古でも美味しく食べれるようにって涼菜ちゃん…ニイサンの妹さんがレシピを作ってくれたんだよ!」
「…マジ?」
"涼菜ちゃん"と言えば…将来パティシエを目指しているかなりの腕の持ち主。
その彼女が…他人の俺の為に一肌脱いでくれたと言うのか?
この…【仲間内】の最大で最高の特権は俺の胸を一段と温かくしてくれた。
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