K I R I B A N





静かな廊下にいれたてのコーヒーの香りがして…ホッと息を吐いた。

「俺はコーヒー中毒だからな…切れてくると全てに支障を来す。」

「へぇ…意外ですね。」

初めて聞く話に相づちを打ちチラと隣りに視線を向ける。

「缶とかじゃダメなんですか?」

「ああ。自分が認めたヤツらのしか飲まねぇ。」

そういう俺サマにすぐ側の自販機を指差してみせた。

「このスタイルのなら平気だから自分で飲む為に俺が設置したヤツだ。」

「…は?」

目がテン。

「って事は…これ拓真サンの…?」

「ポケットマネーだ。」

…この人は一体?

美味いドリップ式のコーヒーを飲みたいが為だけに自分で自販機を設置しちまうなんて…ウチの親よりヤンチャな金の使い方をするな?

…あれ、でも…?

「だったら購買に置けば良かったんじゃないですか?わざわざこんな遠いところに設置しなくても…。」

「ああ…本当はそうしようとしたんだが理事長が自分も飲むからココにしてくれっつーから仕方なく…な。」

…理事長??
なんか…話の規模がまた微妙にデカいよな。
苦笑いをして少し温くなったコーヒーを流し込んだ。

「そう言や…お前、大学どこに行くって?」

突然そんな風に振られてビックリして俺サマを見る。

「どうしたんです…イキナリ。」

「自分の身内の事くらいは知っとかねぇと…と思ってな。」

コーヒーを片手に俺サマがサラリと【身内】…と言ってくれた。
その言葉がなぜだか妙に嬉しくて心地良かった。








◇◆◇◆◇







「へぇ…俺はてっきりK大辺りを選ぶのかと思っていた。」

「そのつもりだったんですけど…W大には俺が尊敬する教授がいるんですよ。」

「あの有名な脳神経外科医か。」

お互い二杯目のコーヒーを傾けながら医大について熱く語り合っていた。

「しかし…拓真サンがこんなに詳しいだなんて正直意外です。」

素直にそう言うと…目の前の俺サマが口の端を上げて笑って。

「俺もだ。」

ニヤニヤしながらコーヒーを飲み干しベンチから立ち上がった。
その姿を見上げる俺を見下ろして。

「多分、お前が医者志望じゃなかったら俺がここまで知る事はなかったろうな。」

ニヤリ、と笑った。

それはつまり…俺が医者志望だからってわざわざ調べた、って事だよな?

そんな風に思ったら…俺サマの言う【身内】がアノ人の中では本当に特別なんだというのが分かって本気で嬉しかった。

「さて…そろそろ購買に戻るか。」

ジーンズのケツポケットから携帯を引き抜きフラップを開いて俺サマがそう告げた。

「え?」

驚いた俺は残りのコーヒーをすぐさま流し込み、とっとと先に歩き出した俺サマの後を追った。






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