K I R I B A N





楓に締め出され奥部屋に行けない俺は少しばかり不貞腐れ気味に読みかけの文庫本の頁を開いた。


カタカタカタ…


隣りから聞こえ続けているテンキーを叩く音とマウスのクリック音に本を閉じる。
そして…その画面にジッと見入った。

「…なんだ。」

ガン見している俺の視線に気付いたのか、それでもコッチに顔を向ける訳でもなく俺サマがそう言った。

「いえ。…つか、忙しそうですね。」

「ボチボチな。」

そしてまたカタカタ…。
…すると。

「…っくしょ…コーヒーが飲みてぇ。」

ふぅ、とデカい溜め息を吐き椅子から立ち上がるとクッと眉間にシワを寄せて俺を見下ろし。

「付き合え。」

短く告げてスタスタと歩きだした。

「…は?」

ガラス戸を開けて廊下に出た俺サマの後を慌てて追いかける。

…ったく…
この俺をこんな風に振り回すのなんてこの人だけだぜ?
そう悪態をついていても相手が俺サマだと異存はない。

…慣れって怖いな。
思わず苦笑いが出た。

無言で歩き続け、少し先にある自販機にたどり着くとジーンズのケツポケットからおもむろに財布を取り出して。

「アメリカンのホットでいいな。」

…と、聞いてくれた…のか?
話の見えない俺は返事もせず俺サマの一連の行動を黙って見ていた。

ドリップ式のコーヒーが落ちきりランプが点滅する。
小さな扉を開けて中のカップを取り出すと…そのまま俺の手元に差し出してきた。

「すいません…金払いますから…」
「要らねぇ。」

そう言って小銭を投入した俺サマは自分用の『スペシャルブレンド』のボタンを押した。





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あきゅろす。
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