K I R I B A N
16
‐柊SIDE
深夜の薄暗い廊下は色んな意味でスリリングだ。
壁の上部に取り付けられているぼんやりとしたオレンジの灯だけを頼りに進み…たまたま目を向けた廊下の窓ガラスに写った自分の姿にビクリとする。
こんな見慣れてる姿さえ…得体の知れないモノに見えてくるんだから夜の力って恐ろしい。
ああ…嫌だ嫌だ。
隣りにいる弘樹の小さな手をギュッと握りゴクリとツバを飲んだ。
追っていたボス達の元にやっとの事でたどり着いた俺達は…促されるまま長めの階段の先にあるドアを開けて外へと一歩踏み出した。
「うわ…!」
目の前に広がったのは…満天の星が煌めく大パノラマ。
ここまで大きな空を…今まで見た事がないかもしれない。
屋上に出た俺達は言葉もなくただその夜空を見上げて感嘆の息を吐いた。
「どーだよ。ちょっとスゲェだろ?」
ドア横のベンチに座り、咥えたタバコの先に火をつけたボスが満足げに笑う。
黙って頷く俺の手を握った弘樹に引っ張られて…手すりの辺りまでやってきて。
「凄いね?」
「うん…こんなキレイな星空は初めて見るかもしれない。」
二人並んで…瞬く星々を見上げた。
暗い夜空からネイビーまでの淡いグラデーション。
それだけでも十分美しいのに…金や銀や赤い星までもがキラキラと光を放ち俺の表現なんておこがましい程に美しく輝いていた。
「キレイだねー!」
「そうだな。」
いつの間にか右隣りには芹公と大葉がいていつものようにノホホンと笑い合っていて。
「ホンっとにキレイだねっ!」
「そうだな。」
左隣りにははしゃぐ西野と言葉少なく夜空を見上げる佐古。
そして後ろを向けば…。
「次はまた…二人っきりでな?」
「ん…約束だよ?」
相変わらずなボスとヒメがいる。
俺の大事な人達に囲まれて同じ時を共有できるなんて…なんて幸せなんだろう?
これ以上に幸せな事なんてあるのか?
ほんわりと温かくなる胸に掌をあて…すぐ隣りにいる愛しい恋人を見つめた。
「手が届きそうな、ってのはこんな感じなんだろうね?」
やんわりと笑った俺の可愛い弘樹が…空に向かって両腕を伸ばした。
その手を掴んで向き合い俺の首に回させて。
「星は俺が取ってあげるから…弘樹は俺を抱いてて?」
そう告げて…驚きに結んでいた唇にキスをした。
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