K I R I B A N

‐佐古SIDE










初めての全員揃っての大移動にみんなヤケにテンションが高かった。
その楽しさのあまり気が付けば陽はすっかり落ちていて車外はすでに真っ暗で。

そんな中、長い坂道をひたすら上りきった辺りで車が右折をしてどこかの敷地に入り…停まった。

「着いたぞ。」

短く言った俺サマが車のエンジンを切るとすぐ…助手席に座る久遠の唇にキスをした。

「ちょっ…バカ!」

…またかよ。

地元を出てからというもの俺サマは車が停まる度にこんな事しまくりで…健全な俺達にはすこぶる目の毒だっつの。

…とは言え、慣れというのは怖いもので。
そんな二人を気にもせず俺達は各々荷物を手に車を降り…ドアを閉めて。

「さ、行くぞ。」

何事もなかったかのように行動を始める。

「ここでいいのかな?」

春日部の指差す方を見て大きく溜め息を吐く。
…なんだよ、ここは。

真っ暗な中の唯一の灯に近付けば近付く程に腰が引けてくる。
だからなんなんだよ…このやたらとデカい旅館は。
伝統とかを感じてしまう程の趣とか重さ?
漂っている空気さえもが違う気がする。
中に入れば…予想通り。
連中までもがドン引きする程の高級旅館だった。

呆然としている俺達の側に…女将さんらしき人が近付いてきて。

「いらっしゃいませ。お客様ご予約はいただいておりますでしょうか?」

そう言われた…が、ウチの総責任者は未だ車の中で恋人とイチャイチャの真っ最中。

…っつーと…俺か?

溜め息を吐きその女将風な人に軽く頭を下げて。

「多分予約は"大葉"でしているかと…調べていただけますか?」

ペコリと一礼した女将さんがフロントに向かっていく後ろ姿を見送っていると…。

「チェックイン終わったか?」

総責任者がニヤニヤしながら館内に入ってきた。

「…もっと早くきて下さいよ。」

「早かったよなぁ…智チャン?」

…だから…下ネタはやめろって。
真っ赤になる久遠とやらしさ全開の俺サマを見ながら…俺達は溜め息を吐いた。





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あきゅろす。
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