K I R I B A N
3
昼休みになり、いつも通りに飛鳥が僕をランチに誘いにきた。
二人並んで階段を上り屋上のドアを押し開けて外に出る。
僕の指定席である階段上のスペースまで備え付けの梯子で上がり、飛鳥が支度をするのを黙って見ていた。
「お待たせです!クンちゃん先輩!」
ニコニコッと笑う飛鳥の口元から覗く八重歯が…可愛い。
なんて…。
テツが変な事を言うから妙に飛鳥が気になってしょうがない。
照れながら座ると同時に僕の口元に唐揚げが差し出されて…それをパクリと口に頬張ると飛鳥が深い茶色の瞳でジッと見つめてくる。
これもいつもと同じ。
「…美味い。」
「ホントにっ?良かったぁ!」
益々ニコニコとしながら飛鳥がその箸で取った唐揚げを自分の口に運ぶ。
…間接キスじゃん。
…って。
ああ…僕は一体…。
「クンちゃん先輩…どうかしたんですか?」
「…いや。」
また出された唐揚げを口に頬張りながら…熱くなる顔を空に向けた。
僕と飛鳥は物心ついた時にはもう一緒にいて…本当に仲の良い兄弟みたいにして過ごしていた。
僕が自分の名前…薫が女みたいでイヤだと言ったあの日も。
『おれね、かおるちゃんのなまえだいすきだよ!だから…そんなこといわないで?』
…なんて。
一晩寝ずに、まともに読めもしない辞書を引っ張り出して勉強して。
『かおるはね、"クン"ってもよめるんだよ!だから…かおるちゃんはきょうから"クンちゃん"にしよ?』
寝不足で真っ赤になってる目をキラキラさせて呆然としてる僕にギュッと抱き着いてきて。
『クンちゃん…だいすきっ!』
そう言って…胸に頬擦りをしたんだ。
あの頃の"好き"は言葉のままの"好き"だった。
…けど今はもうあの頃とは違う。
でも…。
「クンちゃん先輩!」
僕の目の前で屈託なく笑う飛鳥に…僕以外のヤツが触れるなんて事はシんでも嫌だ。
だって飛鳥は…
僕の飛鳥だから。
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