K I R I B A N




相変わらず部屋のど真ん中で立ったままの楓を見ながらベッドから身体を起こす。

「楓…。」

できるだけ穏やかに声をかけているにも拘らず…ビクッと震えた楓は恐る恐る俺に視線を向けた。
その態度は…ちょっとばかし傷付くんだが。

「なんで俺が怒ったか…お前、分かってる?」

俺の疑問に涙目の楓が弱く首を振る。
ボリボリと頭をかきむしった俺は…天井に向かって本日最大の溜め息を吐き出した。

「…も、いいや。おいで楓。」

脱力しつつ差し出した俺の右手をマジマジと見つめ楓が困った顔をする。
それでも…ゆっくりと近付いてきてベッド脇までくると、遠慮がちに俺に抱き着いてきた。

…あーチクショウ。
全く…可愛いじゃねぇかよ。

ギュッとしがみ着く楓を抱き締めながら人知れず溜め息。
俺に慣れさせるつもりが俺の方がこの展開に馴染むハメになるとは、だ。
薄々感付いてはいたが…本当にこうなると、もはや笑うしかない。

「あのさ…お前、勉強イヤだったのか?」

腕の中の可愛い恋人がフルフルと首を振る。

「じゃ…なんでトイレ行ったらすぐに戻らなかった?」

黙って鼻をすすっていた楓が俺の腕の中から涙に濡れた顔を上げた。

「…あのね…根津くんが着てたシャツ、カッコよくて…佐古に似合いそう…って思って…。」

濡れた頬を拭ってやってる親指が止まる。

「…それはどういう…?」

「僕、佐古にいっつもお世話になってるから…プレゼント…したくて。だから…買ったお店を教えてもらってたんだ。」

…呆然。

そんな事、だったのか?
ウルウルしてる黒い瞳を見つめて苦笑いをして。

「…そう…だったのか。」

としか…言えなかった。
俺のためにと楓がしていたのに…それを勘違いして勝手に怒っちまった。

「ごめんな、楓。」

「謝んないで!それを内緒にして佐古をずっと待たしちゃった僕の方が悪いんだから!」

頭を下げた俺に慌ててすがる楓が可愛くて…愛しくて。
抱き締めた腕に力をこめた。

「楓…怒ってごめんな?」

「ううん…佐古なら分かってくれると思ってたから…。」

マジに可愛らしいコロシ文句と笑顔にクラッとして…その柔らかい唇に俺のを重ねた。





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あきゅろす。
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