K I R I B A N
1
学校帰りに"ジーマニ"でバイトして…ラストのシメまでを終えて店を出た今は夜の十時で。
「…うわ…寒い。」
駅ビルの裏手に出て携帯のフラップを開きチェックをする…と、俺の大事な"俺さま"から。
『迎えに行く。』
たった一行だけのメールが届いていた。
事前に連絡を入れておいたから、こっちが終わる時間も全部計算してそれに合わせて来てくれる。
優しい…"俺さま"。
何だかんだ言いながらも俺を…まるで宝物でも扱うかのように大切にしてくれる。
そんな愛しい拓真を思って胸が温かくなった。
…すると。
「こんなとこでなーにしてんのー?」
ロレツの回らないやたらにでっかい声が後ろから聞こえてきて振り返る。
…と、予想通りやっぱり酔っ払いでしかも三人。
…関わりたくない、と思って駅ビルの従業員用口に戻ろうとした腕を掴まれ驚いて振り返った。
「白草の制服だよねー?」
「学生がこんな時間にこんなトコに居ちゃいけないんだぞー?」
…二十代くらいのサラリーマン風な奴等がこんな所でヘベレケでいるのはいいのか?
そんな事を思いながら、掴まれてる腕を振り払って逃れようとする…けど。
「キミ、可愛いね?」
「ちょっ…痛い…!」
腕を強く掴まれて思わず声を上げた。
「うわ…可愛い声!」
「ねぇ、白草って男子校なんだろ?ホモばっかいんの?」
「マジ?もしかしてキミもホモだったりすんの??」
口々にそう言う酒臭い奴等に囲まれて…さすがに身の危険を感じる。
どうしよ…とにかく逃げなきゃ。
「放せッ!こ…の!」
必死に腕を振り声を荒げるけど非力な俺じゃ…。
「可愛いなぁ…。」
デレっとした酔っ払いが鼻の下を伸ばした瞬間。
カッ!…
と強い明かりが当てられ…驚いてそっちに視線を向けた。
「んだ…眩しいな!」
「どこのどいつだよ!」
暗闇の中に止められた車からのブルーのLEDのライト。
その光を背負って立つ、スレンダーな人影。
それは紛れもなく…俺の大事な恋人の姿だった。
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