K I R I B A N




買い物を終えてマンションに到着し、両手に山程の荷物を抱えてひとつ溜め息。
今買ってきたばかりのアイテムを頭の中で反復し…買いもらしはないかとチェックをした。

…俺の愛しい智が夕べから熱を出している。

…正確に言えば…。
夕べ帰宅したら夕飯の支度をしたまま智がブッ倒れてた。
また発作を起こしたのかと心臓が止まる思いで抱き上げれば…その華奢な身体は焼けるように熱くて。

すぐさま車に乗り込み、救急病院へと走った。

―結果。

風邪をこじらせているらしく四十度近い熱が出ていた。
そして医者からの一言。

『気が付きませんでしたか?』

…悔しいが…全く気付かなかった。
いつもと変わらぬ笑顔になんの変調も感じなかった自分に腹が立った。

智は…そういう事をあまり表面に出さないから。
だからこそ、俺がちゃんと見ててやらなきゃならないのに。

病院から戻りベッドに横たえた愛しい恋人の髪を撫で…額にキスをした。

愛と贖罪の意を込めて。







◇◆◇◆◇








「…ちょっと遅くなっちまったな。」

腕時計をチラ見すれば…時間はもう七時を回っていた。
部屋の前に立ち鍵を取り出した鼻先にふんわりと漂ってきた美味そうな匂い。

「あのヤロー…。」

鍵を握り締めて…低く唸った。


玄関ドアを開けズンズンと中に進みキッチンに入る。
…すると案の定。

「お帰り、拓真。」

パジャマの上にパーカーを着た智が菜箸片手に料理の真っ最中で…その姿に、軽くキレそうになった。

「…なにがお帰りだこのヤロー。」

気付かない内に低くなってた俺の声に智が困った顔をする。

「お前昨日の…」

…なんて能書きはいい。
持っていた荷物を足元に放り投げてIHの電源を落とし、智の手から菜箸を取り上げるとそのまま姫抱っこをする。

「たくっ!?」

少し鼻声なヤツを睨み付け何も語らず寝室に向かって…。



ボスッ!



その病人を…ベッドに投げ入れた。

「ちょっ…?」

「ウルセー!」

パーカーを脱がせ、履いていた靴下を抜き取ると足元に丁寧にたたんである布団を引き上げ智に被せて。

「黙って寝てろ!俺の許可ナシにベッドから出やがったら犯すからな!」

返事も聞かずに背を向け、部屋を出てキッチンに戻った。
テーブルの上には俺の好物の鮭チャーハンが乗っていてその横には置き手紙が。





『 拓真へ。

お仕事ご苦労さま。
美味しくないかもしれないけど良かったら食べてね。
悪いけどもう少し寝かせてもらいます。
何かあったら起こして下さい。
拓真、いつもありがと。
おやすみなさい。


智之。』





…ちくしょう。
なんだってまた智のヤツこんなに可愛いんだ?

智からの手紙をたたみ胸ポケットに収めて鮭チャーハンを一口頬張る。

「美味い。」

そして…たった今までIHに乗っていた鍋のフタを開けると、中身はまた美味そうな卵スープ。
その香りの良さにノドがなる。

「…ありがとな、智。」

小さく呟き椅子に腰掛けて…鮭チャーハンを口一杯に頬張った。





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