K I R I B A N
B
ホールの中に入ると独特の音響と空気に懐かしさを感じた。
久遠と仲良くなったばかりの時は、暇さえあればこうしてオケを聴きに来てたんだ。
まだ何か月も経ってないのに懐かしさを感じる。
席に座ると久遠がそわそわし始めて。
「ゴメン…ちょっと。」
そう言って携帯片手に駆け出して行った。
あの様子だと…拓真か?
俺と一緒なんだから心配する必要なんてないだろうに。
―溜め息。
初めて久遠と話すきっかけになったのは、アイツの着メロだった。
授業中に大音響で第九が流れ、びっくり半分興味半分。
そして…今に至る。
あの時の久遠の焦った顔が未だに忘れられない。
思い出し笑いをしてるとヤツが戻ってきた。
「早かったな?」
「ん…ゴメン。」
頬を赤くしてる理由は…拓真?
そんな風に思ったらかなり胸が痛んだ。
こんなに側にいるのに感じる距離は思ってたより遠い。
一緒にバカ言って笑い合ってた頃が懐かしいよ。
そして…ライトがおとされ楽しみにしていた時間が始まる。
俺の好きなベートーヴェン…しかもベト七。
チラと隣りを見れば真剣な顔付きの久遠がジッとステージを見つめてて。
薄暗い中ほんのりと浮かび上がる横顔に心臓が大きな音をたてた。
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