K I R I B A N
F ―楓SIDE―
ランチを終えた僕らは今いる駅ビルの隣りにあるスポーツ館へと移動した。
エレベーターに乗り込み一気に屋上に上がって…開いた扉の先には緑のネットが張り巡らされた、どことなく懐かしいような…そんな光景が拡がっていて…。
「いかにも…って感じだな?」
横に立つ佐古が僕の背中を押して中へ進む。
「おっ!なんかイイ感じじゃね?」
「ピッチングコーナーがあるよ!」
柊と春日部が仲良くピッチングの方へ向かい僕は球速91kmのブースのドアを開け中に入った。
「お手並み拝見させてくれよ?」
ブースのガラス越しに佐古がニヤッと笑う。
うん……でもね…。
「…あんまり期待はしないでよ?」
もう何年もバットなんて握ってないからね…って苦笑いしてると。
「楓の違う一面が見れりゃいい。ケガだけはすんなよ?」
そう言ってやんわりと笑ってくれた。
あぁ…
佐古のこの優しさが僕は大好きなんだ。
手元のメットを被り立ててあるバットの中から一番軽くて短いのを選んで…振ってみる。
…いい感じ。
お金を投入して顔を上げると、隣りのブースには大葉が入ってて…。
目が合いなぜか照れてお互い笑い合ったりして。
スタンディングポジションを決めて構え…
投げられたボールを…。
―キィィン!
『おぉっ!!』
ガラスの向こう側からみんなのザワメキが聞こえた。
…もしかして…
僕は運痴、とか思われてたりするのかな?
苦笑いしながら二球目も大きくスウィングした。
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