K I R I B A N
A
あぁ見えても楓はそんなに頭が悪い訳じゃない。
ただ、要領が悪いだけなんだよな…。
立ち上がってそのままベッドに倒れ込むと…微かに楓の匂いがしてなんとも言えない気分になる。
可愛い恋人があんな側にいるのに触れられねぇなんて…すンげぇジレンマだ。
お預けくらうのって…こーゆー事を言うんだろうな?
…なんて俺らしくもねぇ思考に陥り嘲笑した。
「ただいまー!」
バンッ!…と勢い良くドアが開き、行く時とは雲泥の差程の笑顔を浮かべた楓が戻ってきた。
「お帰り…ってまだ時間じゃねぇぞ?」
指定した時間よりも早い戻りに驚きつつ体を起こす。
「はい、佐古センセ!」
…と、俺の目の前に赤い缶のコーヒーが差し出された。
「僕に教えるの大変でしょ…?懲りずに付き合ってくれてありがとね!」
そう言ってニッコリと笑った。
なんて…
なんて可愛い事言うんだよコイツは!
気が付けば…腕を掴んで引き寄せ、楓の華奢な身体をキツく抱き締めていた。
「ちょっ…佐古ってば!コーヒー…」
「あぁ…ありがとな?」
込み上げる愛しさを押さえ切れず…抱き締める腕にグッと力を込めた。
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