K I R I B A N
J ―佐古SIDE―
《缶蹴っちゃえばスカッとするからちょっとの我慢だ。》
《そんな簡単に…》
《俺達に任せろ。上手く足止めするから。》
優しい顔して弟が笑い、ガチガチの楓の頭を撫でた。
コイツ…ホントにイイ奴だよな。
ちょっと頭堅いけど。
さて…と。
あとはタイミングを…と植え込みから少しだけ顔を出したら、ジャングルジムのてっぺんに座ってる俺サマと目が合った。
《あ。》
口の端を上げた俺サマが組んでる足で柊を指していて…
もしかして、合図くれんのか?
…あの人が味方なら申し分ねぇ。
《準備はいいか?》
ビクッとする楓の様子が繋いだ手から伝わる。
《いつでも。》
気合い十分な弟の声。
《楓…?》
返事もできねぇか?
困ったもんだな。
《これが終わればもっと楽しい毎日が待ってるぞ?》
《…え?》
繋いだ手をギュッと握って…俺サマからのスタートの合図に!
「GO!」
走り出した俺によそ見していた柊が追い付き案の定潰された。
てか…
「マジタックルかよ!」
しこたま頭を打ち付けた俺の上から起き上がると、身をひるがえした柊が少し先を走る弟に向かって走りだす。
…なんだあの瞬発力。
人間じゃねぇよな全く。
「粘れ!弟ーッ!」
「良介ー走れーっ!」
「大葉!頑張れーっ!」
「祐一郎っ!突っ込め!」
いつの間にか捕獲されたメンツもギャラリー化して…なんか盛り上がってんな?
缶から離れた場所まで逃げきり、柊のタックルが弟を捕らえた。
派手に転ぶ二人を尻目に楓が必死に走って…
「行けー西野っ!」
「チャーンスッ!!」
「ゆう!立てーっ!」
何とか立ち上がった柊が猛ダッシュで楓を追っかけて…
「楓ーっ!!」
カァァァン!
青空に…缶が蹴り上げられた。
同時に楓は柊のタックルに潰されて…。
「スゴいよ、西野!」
「良くやったぁ!」
久遠と芹沢が楓を起こして汚れた制服を払って…弟が頭を撫でる。
春日部も笑いながら楓の頭を撫でた。
「あ…!」
いつの間にか下に降りた俺サマが楓の目の前に掌を向けて…
顔を真っ赤にした楓がハイタッチならぬロータッチしながら照れくさそうに笑った。
「チクショー西野!もう一回だ!!」
ムクッと起き上がった柊が笑いながら楓を見て…
楓が幸せそうに笑った。
―END―
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