K I R I B A N
A
―次の日。
朝早く起きて何の説明もしないまま智を連れ出し車に乗せた。
「拓真…どこ行くの?」
「涼しい所。」
キョトンとした智がやんわりと笑いダッシュボードの中からMDを取り出し選別を始める。
「MD、結構聴けそう?」
「多分な。」
春日部にダビングしてもらったという『ORAN
GERANGE』を聴き良介にもらった『サザン』が終わる頃にやっと目的地に到着した。
車から降り、むせ返る程の緑の匂いに大きく深呼吸をする。
「空気が美味しいね。」
隣りで同じように深呼吸した智の唇にキスして、吸い込んだ空気をそのまま奪った。
「…苦し…いよ…!」
俺の体を押し返し、頬を赤くして怒る智はマジ可愛い。
「人がいないからいいだろ?」
「いい訳ないでしょ!」
だから…その怒った顔もそそるっての。
ニヤニヤしながら智の手を握り指を絡めて。
「んじゃ行くか?」
繋いだ手を引き、上流に向かって歩きだした。
「緑が鮮やかでホントにキレイだね。」
さらさらと流れる清流を見下ろし穏やかな川辺を並んで歩く。
俺の腕に寄り添い顔を赤らめる智が可愛くて愛しくて堪らなくなって。
立ち止まり…その細い身体を強く抱き締めた。
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