愛のカタチ/1.5
K

「君を初めて見たのは…オリエンテーションの時だった。」

横たわる俺の腰の辺りをまたぎ両肩をマットに押し付けた状態で彼が淡々と語り始める。

「台の上から眺めた一年の中に一際輝く君を見付けたんだ。そしたら君は…僕の視線に気付いて笑ってくれたね?僕はあの時に運命を感じたんだ。」

…嬉しそうに語る彼とは反対に俺は戸惑うばかり。
確かに…入学して間もない頃、一年全部を体育館に集めての部活説明会があった。

俺は部活に入る気なんてなかったからどれも真剣に聞いた記憶なんてない。
明らかに…この碓井さんの思い違いだと思う。

「んー、んー…」

そう返そうにも口を何かで塞がれているからしゃべる事が出来ない。

「だからあの日…君を迎えに行ったんだ。」

俺を見下ろす彼の目がキツくなる。

「なのにあの…大葉良介に邪魔されて挙句、三越にまで見付かって。奴は三年の学年主任と仲が良いから迂闊に君に近付けなくなってしまった。」


ギリ…


肩に置かれた彼の手に力がこもり俺は痛みに顔をしかめる。
それに気付いてか慌てたように両手から力を抜いて。

「近付けないけど…いつも君だけを見てたよ。」

フッと笑って俺の髪を愛しげに撫でる。


ぞわぞわ…


好きでもない相手にそうされて気持ち良いはずがない。
わき上がるのは…ただ、ただ嫌悪感だけ。

その手を払おうと必死に頭を左右に動かす…と、アゴが長い指に捕えられズイッと彼の顔が近付いて。

「もっと早くこうしていれば良かった。」

短く息を吐きまた少し顔が近付く。

「そうしたら…あんなつまらない男に君を奪われる事なんてなかったのに。」

苦々しげに唇を噛み締める彼を見上げて思考が止まる。

あんな…
つまらない男…?

その言葉が拓真を示しているのは明確で。
俺はそれが悔しくて悔しくて仕方なくて、動かせない体をそれでも必死に動かし抵抗をした。

なにが…つまらない、だ!
拓真の事、なにも知らないクセに!

「なんだ…!こら暴れるな!」


バシッ!


振り上げられた掌に頬を叩かれる。
そんな事より何より、俺はこの人が許せなかった。

何よりも大事な…俺の大切な人を馬鹿にしたこの人が。

…すると。


ドンッ!


突然どこからか物凄い音がして俺達の動きが止まる。


ドンッ!


ダンッ!


ダンダンダンッ!


その音は次第に大きくなり俺を抑えつけている碓井さんの顔付きもまた険しくなってくる。

「まさか…」

小さく呟く彼を見上げたまま俺は、折り曲げた両膝を力一杯振り上げた。


ガツッ!


鈍い音と共に彼の身体が後ろに倒れ、俺は何とか体勢を立て直して音のする方に視線を走らせた。

…そして。


ドガッ!!


聞いた事もないような文字通りの轟音と共に光が差し込み…。

「智!!無事かっ!?」

その中から…俺の大事な何よりも大切な拓真が姿を現わした。


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