愛のカタチ/1.5
C‐柊SIDE

ビビッた。

心臓が口から飛び出すんじゃないかって程驚いた。
弘樹があんな大声出すなんて。

すっげ怒ってたっぽい。

や、『ぽい』じゃねー…確実怒ってたな。
今までの統計からするとあの場合、俺と大野弥生さんがしゃべってたのに腹を立てて…なんだろうけど。

「ねぇ、弘樹?」

朝食の片付けを終えて離れに戻っても弘樹はいなくて。
本家の弘樹の部屋の前でそう呼び掛けても返事はない。

…こりゃ…相当怒ってんな。
見えない障子の中をジッと見つめて頭をかき溜め息をひとつ。

「ひろ…ゴメン別に大野さんとどーとか…」


ピピピ…


軽快な電子音に気付きジーパンのケツポケに入れてる携帯を取り出す。

「…タイミング悪ぃ。」

メールの主は俺のバイト先のボス・鹿住さんで…その内容はと言えばお約束のバイト出勤指令。

返信を済ませてフラップを閉じ更にデカい溜め息を吐きだしてから障子に向かって。

「ひろ…バイト入ったから行くよ。今日はお祖父様と出かけるんだったよね?気を付けてね。」

そう告げても中からは物音ひとつ聞こえない。
でも…いるのは分かってるんだ。
掌で触れてる障子がホンの少し冷たいから。

きっとこの掌の向こう側には弘樹の小さな手がある。
だけど…たとえ誤解されたって俺にはやましい事はひとつもないから、障子を開けて弘樹を抱き締めるのはしない。

"ゴメン"って言ったから…その後は弘樹の判断に任せる。

誰かと話しをする度これじゃ…俺はあの人と話ができなくなっちまう。
彼女は一緒に働く仲間だから…弘樹にはあの光景に慣れてもらわなきゃ困るんだ。

溜め息をひとつ吐き障子から掌を外して。

「…行ってきます。」

そう言って…向こう側で黙ったまま佇む弘樹に背中を向けた。


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