愛のカタチ/1.5
A
長い間疎遠になりどうしようもない程空いてしまっていた僕と家族達の心の溝。
その深く大きな溝とわだかまり…みたいなのがホンの少しだけ解けて僕は実家に戻った。
だけどまたそこで色々とあって…まあ結果的にこうして、僕の恋人も僕の実家に一緒に住む事になったわけ。
でもそれは以前のような甘いだけの生活じゃなくて…。
◇◆◇◆◇
「弘樹くん、良かったら組ませてもらいたいんだけど。」
目の前にはおよそ柔道とは縁のなさそうな甘いマスクの男。
その笑顔に苦笑いを向けて。
「ごめんなさい。僕はそういうのしない約束で稽古の立ち会いしてるんで。」
…と返してペコンと頭を下げてから相手に背中を向けた。
広い広い道場の中には朝だっていうのに結構な数の人。
我が『春日部道場』の多々いる門下生ではなく、その師匠の孫の僕に直接申し込みをしてきたこの人は…余程空気が読めないのか、余程僕が気に入ってるかのどっちか。
「キミが組ませてくれるまで毎日お願いするよ。僕は諦め悪いから。」
…ってやたらと明るい声に振り向けばその声通りに爽やかに笑うKY男。
どうやらこの人は後者だったらしい。
「あの…戸野さん…」
「良かったら隆生って呼んでくれないかな?」
「戸野さん、何度言われても僕は無理なんで。」
あからさまな仏頂面を向けて軽く頭を下げると何かを言いかけた彼に背を向けてお祖父ちゃんの元に向かう。
なんだよ…アイツ!
そうでなくても朝一のゆうとのケンカでイライラしてんのに。
益々倍増するストレス。
それが頂点に達しようとしたその時。
「弘樹。今日の予定は中止になった。」
「えっ?」
組み稽古をしてる門下生達を眼力で威嚇しながら僕のお祖父ちゃんがボソリとそう言う。
「午後は自由にして良い。」
せっかくの日曜日だってのに今日はお祖父ちゃんの柔道の出張稽古に付き合わされる予定だった。
それが…中止になった?
嬉しいけどハッキリそうとは言えない。
…けど。
「そ、それは残念!」
そうこたえた僕を呆れた顔してお祖父ちゃんが見て。
「こんな事でお前の笑顔が見れるとは…なんとも微妙だな。」
そう言って…苦笑いをした。
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