愛のカタチ/1.5
D
腕の中で眠る弘樹を起こさないようそっと抱き上げ…ゆっくりとベッドに下ろした。
眠ってるその顔さえもどことなく辛そうに見えて…胸を締め付ける思いを噛み締めながら足元にたたまれた布団を引き上げかけてやる。
「…ひろ…。」
サラサラの髪を撫でながら名前を呼んで…カーテンの隙間から差し込む月光に照らされた頬に掌を添えて…唇にキスをした。
縋るようにしていたベッドサイドから立ち上がり弘樹の前髪を直しながら額にキスをして。
「…行ってきます。」
そう言って弘樹の部屋を後にした。
初めて見る程の弘樹のあんな姿に動揺を隠しきれず階段を下りながら悶々として…下りきり、寮の玄関から出ようとした瞬間。
「…こんな時間にどこ行くんだ。」
そう声をかけられ振り返った先の、弘樹のイトコ兼寮の管理人の剣右さんをジッと見た。
「なに思い詰めた顔してんだよ。」
苦笑いを浮かべながら近付いてくる剣右さんに苦笑いを返して。
「今日…希が弘樹に会いにきました。」
途端、サッと顔色が変わる。
「…そうか。そんで…行くのか?」
「はい。弘樹が一番キツい時、俺は何にもしてやれなかったから…。」
握り締めた拳を見下ろし剣右さんが薄く笑う。
「俺が言うのもなんだが…あの家はジイサマの家だからな。お前がどこまで太刀打ちできるか分からんよ?」
「俺も…伊達に弘樹の幼馴染みしてませんからね。あの家の事情は十分過ぎるくらい分かってますよ。」
苦笑いしている俺の頭に剣右さんの掌が置かれ、いつもニヤニヤしてる彼にしては珍しい真顔を真っ直ぐコッチに向けて。
「ジイサマをなんとかできるのは…他人であるお前だけなのかもしれないな。」
そう言って…ペコリと頭を下げた。
「剣右さん…。」
「お家事情に巻き込んじまって申し訳ない。だが…もう少し巻き込まれてくれ、頼む!」
年下の…しかも俺に頭を下げるなんて剣右さんにしたらとんでもない屈辱だろうと思う。
だからこそ俺は…絶対に弘樹を救ってやらなきゃならない。
拳をグッと握り締め…剣右さんに背中を向けて。
「弘樹は…俺が守りますから。」
そうとだけ告げ…玄関のガラス戸を押し開けた。
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