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空は青く高く、強い日差しが目と肌を焼いた。
夏だ。
カラカラ乾いた風が吹く。
生暖かな砂混じりの其れが、何処からやってきたのかはわからない。
こめかみからツっと一筋汗が伝い、地面に落ちた。
一瞬だけ染みをつくったかと思えば、直ぐに土にまぎれてしまう。
僅かな水分でさえ足りない、そう言われているようだった。
砂漠化が進んでいる。ぼんやりそんなことを考える。
人も草も土もそのうち、干からびてしまうんだろうか。
キュウゾウは目の前を歩く男の背中を一心に見つめた。
白い衣の回りがゆらりと蜃気楼のように揺らぐ。
色のない日の光。
蝉の鳴く音が煩い。
朦朧とする視界の中に、見えるのはその背中だけで、いつかもこんな光景を見た気がした。
揺らぐ、霞む。
戦場に意識がとぶ。
陽炎の中に、幻の炎と煙。
落ちた城から抜け出た時。
あの時ヒョーゴが来いと言わなかったなら、きっと自分はこの世にいない。
互いに救った訳でも救われた訳でもなく、ただ亡骸がふたつ、戦場から消えた。
思えばそれからずっと、目の前にはこの男がいる。
お前はいつ干からびてしまうんだろう。
何も残っていない体のくせに、得ようともしない脱け殻のような。
そんな姿をいつまで曝すのか。
長い黒髪が邪魔そうに揺れて、切り落としてしまいたい衝動に駆られる。
首の辺りまで一気に、そうしたら涼しくなりそうだ。
「キュウゾウ、少し休むぞ」
唐突に歩みを止めて、ヒョーゴがくるりと踵を返した。
ザキュと砂を砕く音がする。
「茶屋がある、先に行っておけ」
「………承知」
冷や水を浴びせられた心地になる。
実際、頭は冷めた。
白昼夢のような光景は色彩を取り戻して、男の血色の悪い唇さえ鮮明に見える。
それでも、目眩がする。
どんどん酷くなる。
ふと、先の日に戦った侍の目が浮かんだ。
命を削る刹那を奪いあった。
懐かしい、戦場の匂いのする男。
思えばアレが、水であっただろうか。
「キュウゾウ」
呼ばれた声に顔を向けた。
その拍子に額に軽い衝撃を覚える。
叩かれたとわかったのは、目の前の男が不機嫌そうに眉を潜めてからだった。
「ばかめ」
暫らく物言いたげに開きかけた唇が、しかし諦めた風にため息を吐いて、そうとだけ呟いた。
もう此方をみない目を、少しばかり恨めしく思いながら、言われた通りに茶屋に向かう。
ヒョーゴの脇を過ぎて、乾いた土を踏み、何故叩かれたのだろうかと思考を廻らせながら歩いた。
くらり
くらり
赤い傘とのぼりと、ゆらゆら揺れる黒髪が見える。
終
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