[携帯モード] [URL送信]
ページ:1



待ち望んでいたのかもしれない。

この手応えを。

斬ってみれば、何かが変わると思った。

漠然と。

ただ漠然と。



















使い慣れた武器を置いてきてしまった男は、反撃も出来ずにこちらの振るった刃にかかった。

その背丈程もある銃を切り崩し、胴を裂く感触が、切っ先から伝わる。

赤色を撒き、崩れ落ちた体が痙攣して、男の痩せた指先は干からびた土を掻く。

何かを探すように。




銃を用いずともヒョーゴは強かった。

対等でいられた数少ない者。

けれど、惜しみはすまい。

男はもう、刀を持たない。




日暮れのようにゆっくりと、しかし瞬いたならいつの間にやらという速さで、男は命を落とした。

刀を忘れて、刀に死ぬは哀れか。

如何なる死に方が良いのか等と、キュウゾウには見当もつかないが、少なくとも自分の望む終わりとは違う。



何故だ、と。

最後に問われたのは裏切りの理由なのだと思った。

生きてみたくなったと答えた。

これは手向けにはならない、きっとお前は絶望するだろう、そう思いながら。



元々、我等は死人であった。

虹雅での日々が不幸せだった訳ではないけれど、死を忘れて、結局我らにもたらされたものはただの虚であったのではないか。

お前も、そうではなかったか。


口にした言葉を。その意味を。

暗くなる瞳が理解する事はなかった。




背後から声がする。

「おいで願えるか」

死の匂いの、纏わりつく男。
何の感動もなく、人もモノも機械も斬れる侍。
戦の終わりを見ない目が、背中を刺す。

「出立を」

振り返らず答えた。

この男を斬るために、自分は今、自分自身を殺したのだ。





[次へ#]

あきゅろす。
無料HPエムペ!