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待ち望んでいたのかもしれない。
この手応えを。
斬ってみれば、何かが変わると思った。
漠然と。
ただ漠然と。
使い慣れた武器を置いてきてしまった男は、反撃も出来ずにこちらの振るった刃にかかった。
その背丈程もある銃を切り崩し、胴を裂く感触が、切っ先から伝わる。
赤色を撒き、崩れ落ちた体が痙攣して、男の痩せた指先は干からびた土を掻く。
何かを探すように。
銃を用いずともヒョーゴは強かった。
対等でいられた数少ない者。
けれど、惜しみはすまい。
男はもう、刀を持たない。
日暮れのようにゆっくりと、しかし瞬いたならいつの間にやらという速さで、男は命を落とした。
刀を忘れて、刀に死ぬは哀れか。
如何なる死に方が良いのか等と、キュウゾウには見当もつかないが、少なくとも自分の望む終わりとは違う。
何故だ、と。
最後に問われたのは裏切りの理由なのだと思った。
生きてみたくなったと答えた。
これは手向けにはならない、きっとお前は絶望するだろう、そう思いながら。
元々、我等は死人であった。
虹雅での日々が不幸せだった訳ではないけれど、死を忘れて、結局我らにもたらされたものはただの虚であったのではないか。
お前も、そうではなかったか。
口にした言葉を。その意味を。
暗くなる瞳が理解する事はなかった。
背後から声がする。
「おいで願えるか」
死の匂いの、纏わりつく男。
何の感動もなく、人もモノも機械も斬れる侍。
戦の終わりを見ない目が、背中を刺す。
「出立を」
振り返らず答えた。
この男を斬るために、自分は今、自分自身を殺したのだ。
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