終わりのない世界(MAMORI.side)
「ん・・・」
呻く。
「頭が痛いわ」
書きかけの日誌から顔をあげ、まもりは頭を押さえて呟いた。
「寝すぎだ、糞サボリ女」
カチカチカタカタ。
軽快なタッチ音がまもりの頭をずきずきさせる。
(あれ?私寝てたの?)
少し不思議そうな顔をしてまもりはヒル魔を見た。
「なんで貴方がまだいるの?」
心底わからないとまもりの瞳は言っていた。
まだ寝起きの頭は上手く働いていないのだろう。
私は、しぱしぱする目でヒル魔くんの口隅が歪むのを見た。
「ほぉ〜?起きた早々その質問とはいい度胸だ。よっぽど気持ちいい夢でも見たのか?」
「な、なによ・・・」
別に、そんな苛々させるようなこと言ってないじゃない!
ヒル魔くんの異様な空気に気圧されて、ぐっと口篭ってしまい、その科白は言えなかった。
「テメェーが居たら部室の鍵閉めらんネェーのがわかるか?糞マネ」
「あ」
しまった!って思ってもダメだ。
「あ゛!じゃ、ネェーよ!俺様の貴重な待ち時間をカエシテクレマスカ?」
ひくひくと眉が痙攣してる。
こうゆうときのヒル魔くんは軽口を叩いてるようだけど実は結構怒っている。
まもりは学習していた。
「わ、悪いと思ってるわ!・・・ごめんなさい」
ヒル魔くん相手だと素直に謝ることにすら抵抗がある。
でも、自分が悪いのだから仕方ない。
まもりはなんとも言えない複雑な気持ちで謝罪した。
「ハッ、早く帰んぞ、さっさと支度しやがれ、糞マネ」
最初、鼻で笑ったわ・・・このひとっ!
怒り心頭といった感じでまもりはヒル魔を睨んだが意に介した様子もない。
それどころか、まもりを置き去りにする勢いで自分だけ帰り支度を始める。
仕方ない、理性でそうは思えども感情がそれを否定する。
まもりはどんどん痛くなる頭に、くらりと、しまいには眩暈すら覚えた。
「っ!」
ずるっと椅子から崩れ落ちそうになり、まもりは慌てて何かに掴もうと手を伸ばす。
だが彼女の両手は何も得られず、衝撃に備えて目を閉じる。
・・・・・・・。
「・・・・?・・・あ・・・れ?」
しかし、いつまでたってもその衝撃は自分を襲ってこない。
(私・・・死んだのかしら?)
なんとも物騒で非現実的な事を思った、ほんの前までの自分を叱りたい。
「んなわきゃネェーダロ。この糞空想壁め」
これだもの。
首を反らせた上のほうに不機嫌そうに眉を顰めたヒル魔くんがいた。
背中を支えてもらってる。
ありがとうよりも先に
(ほんと、微妙に力あるのよね。ヒル魔くんって)
とまたも心の中で想ってしまった。
「余計なお世話だ」
そして、これもまた返答がある。
「人の心を勝手に読まないでよ!」
今度は口に出して言った。
フンと鼻を鳴らす男の心の内は全く解らないから憎らしい。
すっと横を見やれば椅子の背があった。
まもりはソレを掴むと腹筋を使い上手に起き上がった。