愛されたマーメイド

愛されたマーメイド


一隻の船が波に呑まれ其処放から投げ出された者には見覚えがあった。
何故、記憶に在ったのかは正直わからない。
大海原へ放られても、その男は一切の焦りを見せず、余裕そうに海を泳いでいた。
なんと変わった人間だろうかと私は何ともなしに眺めていた。
だが此処から陸まではかなりの距離がある。
人間の水中能力では到底たどり着けはしないだろう。
あの人間もその内力尽きて深い海の底へ沈みゆくのかと思った。
そうなることが当たり前のように感じたし、確かに残念なように思えた。
何故その様な感情が芽生えたのかも私はわからない。
あの人間にこうまで心を動かされるのが不快だった。
男から9メートルと離れた距離から伺っていた私は気分を害したので帰ろうと男、人間に向かって背を向けた瞬間である。

「オイ、其処の糞人魚。帰る前に助けてけ」

嵐の中なのに、遠くから確実に、私へそのセリフは届いた。
信じられない出来事に度肝を抜かれてる暇は無い。
私が人間を振り返った時には男の金髪が海へ埋まった頃だった。

私は急いだ。

自ら海へ潜り目当ての元まで全速力。
私が男の目の前に来たとき、男はまだ意識があり水中で目を開けて、確かに私の姿を捉え口隅を歪めて笑った。
水中では聞こえないはずの人間の声が聴こえた気がしたのは幻聴だろうか。
その幻聴を最後に男が意識を失った。
私の脳裏にその台詞は今も尚鳴り続ける。


「「糞人魚、会いたかったぜ?」」


このまま放りっておけば男が海の藻屑と成り果てる。
その想像をして初めて私は背筋が凍ると言う感覚を覚えた。

死なせない。

私はその刹那、人間の男に触れる事を躊躇わなかった。
私が人魚の掟を背いた瞬間だった。



070318.








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