忘れ物 2
私はあの時。そう、ヒル魔くんを待っていたんだ。いつもと同じ帰り道。違うのはたった一つだけだった。
学校を少し出た所で、ヒル魔くんが何かを思い出したようにあって顔をした。

『どうしたの?』

珍しい表情してる。

『あー…糞マネ。お前ちょっと此処で待ってろ』

『え、何?どうしたの?』

『直ぐ戻る』

そう言って走って行こうとする勝手な男。

『どうしたの!?』

いい加減無視され続けて頭に来てた私は彼の背中に向かって叫んでいた。
すると、ヒル魔くんは一瞬足を止めて此方を振り返った。
小さな舌打ちも聞こえる。

『――忘れ物…』

呟くように言うと彼は居なくなった。私は結構驚いていたんぢゃないかと思う。

ヒル魔くんが―…忘れ物?
あの人がか?

そんな事を色々自問自答しながら、冷たい壁に背を付けて彼を待った。
何だかデートみたいだと少し思い、ドキドキしてしまったのは彼には内緒。そんな時、頭の上から出来た影。

『ヒル魔くん』

彼かと顔を上げて見ると知らない男性が三人程。内の一人が笑いながら私に言うのだ。

『ヒル魔の女か?』

悪い予感が背筋を駆け巡った。
鳥肌、声が凍る。そうしたら、男二人掛かりで拘束されていた。

『やめっ!!』

拒否の言葉を口したと同時に腕にチクリと痛みが走った。有り得ない。
早急たる唐突な出来事に意表をつかれたのだ。ぞわっとした感覚と共に淡い痺れ。そのまま私の意識は飛んだのだ。

*******

あぁ、そうだった。
回復に向かう思考回路は着実にあらすじを辿った。多分目の前の男がリーダーだ。
それだけは確信がある。後の二人は何処へ?
視線だけで辺りを見回したが、後の二人は此処にはいないようだ。
リーダーの男は会話に飽きたのだろうか、先程から黙ったまま向かいに腰を下ろしていた。
私はこの状況下での回避策を考案していた。
右手は動かない。手錠でパイプに繋がれていた。
古いパイプだ。錆び付いた独特の色をしている。
しかし、開いてる左手で何が出来よう。
パイプを壊すことも手錠の鎖を断ち切ることも女の力、非力な私ではどう足掻こうと無理なのは目に見えている。
黙って助けを待つだけなか。それは何故だか私を不快感に苛んだ。
私が眉をしかめて険しい顔をしたのが男の興味を誘ったのか、男が唐突に口を出してきた。

「オイ、女」
「……」
「お前、何であの男の女になんかなった?」

それは、思ってもみなかった質問だった。何を言いたいのだろう?私は困惑していた。

「私はヒル魔くんの彼女ではないわ」

だが、律儀にも私はそう答えていた。男が驚いたのがわかった。

「はぁ?!」
「私は彼女じゃない」

そう、私は彼女ではない。一緒に帰っていたりしたから間違えられても仕方ないとは思う。
彼と一緒に帰れるのをいつから心待ちになるようになったのか。知らないでいたかった気持ちにあの人は気付かせる。
私は自分が恐ろしくなる程ヒル魔くんが好きなんだって。

「…ヒル魔くんは…アメフトが恋人よ?」

彼はアメフトの事になると人一倍夢中になる。アメフトが唯一の真意と真実。
それ以外には興味を示さず、只、流れて行く時に身を任せ、曖昧な態度で全てを片付ける。
私には彼の気持ちがわからない。私なんて彼に取っては只のマネージャーに過ぎないのかも知れない。
でも、それを知ってしまうのは怖すぎる。

「ハッ!何言ってんだ。お前は自分を知らなさ過ぎる」

男はそう言って皮肉に笑った。
私が男の言葉を理解出来ないでいると何処からかガタン!と言う鈍い音が聞こえた。


「随分とイイ誘い方してくれるじゃネーか」

低い耳を震わす声、大量の光が瞬く間に眼球に焼き付いた。

「ヒル魔…くん…」

どうして?

困惑している私を蘇えらせたのは意外にも私を拉致した男の言葉だった。

「なぁ?お前。コレが答えだ」


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あきゅろす。
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