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ただ望むのは、(ガク→姫)

穏やかな春の光が、木々を包む。

広場では小さな子ども達が、楽しそうに走り回っていた。

私たちは公園の端っこのほうにある池の前のベンチに座っていた。




春の風が私の髪の毛だけをゆらす。







「与えられるものに縋りつきたいだけかもしれないよ」

「ひめのんがのぞむならそれでいいよ」

「貰うだけ貰って、いらなくなったらグチャグチャにしてポイって捨てるかもしれないよ?」

「ひめのんになら、踏みにじられるのもいいかもね」

何をどう言っても、ガクリンはのんびりと答えるだけだった。

「…どうしたら、私をきらいになってくれるの?」

最近、ガクリンと二人きりのときに話すテーマはコレ。

今は、ガクリンと一緒にいるのは楽しい。
でも、これは『永遠』じゃないって私は知ってる。

この『楽しい気持ち』はずっとは続かない。

私はガクリンの優しさに甘えているのを自覚しているし、それに彼は幽霊だ。

ガクリンを縛る未練が消えてしまったら、ガクリンも消えてしまう。

そして、ガクリンの一番の未練は『運命の人』を見つけることではないということに私は気づいている。

ガクリンはなんにも教えてくれないけれど、もっと黒くて深くてドロドロとした感情がガクリンを縛っているのが私には分かる。


「…それは無理な相談だよ、ひめのん…だって、おれにだってひめのんを好きな気持ちはコントロールできないんだから」

のんびりと、ふんわりとガクリンは答えた。
うたかた荘に来てから随分長い時間が過ぎたというのに、私は未だにガクリンの口から紡がれる愛の言葉に慣れなくて、心臓がドコドコと鳴り始めた。

ガクリンが、「あ…」と言いながら、ポンと手を打った。

「じゃあ、これはどうだろう?おれに『“好き”って言わないで』といえばいい。そうすれば、この想いを告げることはしないから」

「…でも…」

「じゃあ…『視界から消えて』とか?」

「…そんなこと言えるわけがないよ…」

「…ひめのんは、どうしてほしいの?」

隣に座るガクリンが私の顔を覗いた。

落ち着き始めた心臓が、またドクンと高鳴る。

「…私は、ガクリンに幸せになってほしいんだよ」

「幸せだよ」

また、ガクリンがふんわりと笑った。

たぶん本当に『今』が幸せなんだろうと伝わってくるその表情。

「ちがうの…ちがうの、ガクリン!私に利用されないで、ガクリンはガクリンだけの幸せを掴むべきだと思うの」

「やっぱり今が一番幸せだ」

ガクリンが笑った。

「ひめのんがオレの幸せを願ってくれてる、それだけで充分だよ」

透ける手で私の頬にふれた。

通り抜けていく瞬間にトプンと小さな音が聞こえた。

「ねぇひめのん。与えられるものに縋るのは罪じゃない」

真っ直ぐな眸が私に注がれる。

「おれは見返りが欲しいわけじゃないから」

心臓がキュウッとなって、息が上手くできなくて、苦しくて苦しくて私は泣いた。



うつむく私の耳元で、ガクリンの低い声が聞こえた。

「ひめのんに愛を注ぐことができるこの日々が一日でも、一秒でも長く続くことだけが、おれの願いだよ」


私が何を言ってもガクリンを変えることはできないんだ、そう思った。




遠くから子ども達のはしゃぐ声が聞こえる。



私もなんにも分からない無垢な子どもだったらよかったのにな…







私は欲しがるばっかりで、全然満たされない子どもです。

でも、もし、私が満たされてしまったときには


貴方が私から離れていくのでしょう?



end.
2008/03/10







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