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日 進 月 歩 (アレ→リナ)




「とりあえず牛乳です!牛一頭分の牛乳をお願いしますっ」

食堂に、気合いの入ったアレンの声が響く。

「あのー…アレンさん?朝から何をしてるんさ?」

また変な場面に出くわしてしまった、と思いながらもラビはアレンに声をかけた。

「『脱・弟プロジェクト』ですよ!!」

闘志に燃える瞳でアレンが答える。
アレンの手は、食事を次々にワゴンへ入れるために動いていた。

「まずは背を伸ばさなきゃいけませんからね」

「ほら、牛乳、牛一頭分よ」

ジェリーが150cmくらいの高さがある大きなタンクをアレンに手渡した。

「ありがとうございます」

キラキラとした笑顔で礼を言うアレンに、ジェリーが頬を染めた。
朝から濃い空気だ、とますますラビはげんなりとした気分になった。

そんなジェリーのことよりも気になるが、丸々タンク一本分の牛乳に突っ込まねばならない。そう意を決して、ラビは口を開いた。

「牛乳タンクごとか!?農家直送なんさ!?」

「はい!これくらい飲まないと飲んだ気がしなくて」

と爽やかに返事をされて、ラビはもう笑うしかなかった。







「せめてリナリーの頭ひとつ分は背が高くならないと格好がつかないと思ったんです」

次々と皿を空にしていくアレンの向かいにラビは座っていた。

「ふーん…」

豚の丸焼きやラーメンや、穏やかな朝には相応しくないメニューを見て、ラビの胃は満腹感でいっぱいだった。

「もう少し筋肉つけたいですし」

「まだ15だろー?そのうちあっという間にデカくなるし、筋肉だってついてくるさ」

「のらりくらりとやっていて、誰かさん達みたいに『お友達』にはなりたくないですからね」

「…朝からブラック降臨か?」

好きで『お友達』でいるんじゃねぇさ、と言いたくなったが、ラビは堪えた。

リナリーが大好きなのはいい、リナリーに男として認められたいというのもいいと思う。だがこの食い意地が張った様はどうだろうかとラビは思った。

目の前に重ねられていく空の食器の陰に隠れて、すっかり食べる意欲を削がれたラビは溜め息をついた。




「アレンくん!ラビ!」

「「リナリー!」」

食事のトレイを持ってリナリーがやってきた。

「おはよう!私も一緒に座っていい?」

「おはようございます。もちろんです」

アレンが破顔しながら挨拶をした。

「おう。じゃあアレンが食い終わった食器を片付けてきてやるからさ、そっち座んな」

ラビは、さり気なくリナリーをアレンの隣りに座らせてやった。

アレンが「ありがとうございます」と言うのと同時に、

「ありがとう、ラビ」

にっこりとリナリーが笑った。

「ちょっと行ってくんな」

と、ラビも笑み返して立ち上がった。




「ラビって優しいよね」

ラビの背中を見送りながら、リナリーがそう言った。

まさかラビを!?と思ってアレンの心臓が跳ね上がった。

「いつもは軽い感じなのに、ちゃんと気遣ってくれるもの」

ドッドッドッドッと、落ち着かない心臓を押さえながら、リナリーの横顔をアレンは見つめる。

リナリーは、ラビの背中に向けていた視線をアレンに向けた。

「アレンくんも神田も優しいから、私は幸せだよ」

と、本当に嬉しそうにリナリーは笑った。

リナリーのそれが、『仲間』としての感情だと分かって安心し、そして、『特別』がやっぱり程遠いことがアレンを寂しい想いにさせた。

「リナリーも優しいですよ…そんなリナリーに出会えて僕もうれしいです」

焦って今の関係を壊したくない、リナリーのこの笑顔を失うことは出来ないアレンは、せめてもの想いを乗せて言葉を紡いだ。

少し照れたような表情を浮かべ、「ありがとう」とリナリーは言った。

リナリーといい雰囲気で会話が出来たことにアレンの心は浮き立つ。

「ところで、アレンくん…そのタンクは…牛乳なの?」

「はい!」

「さすがアレンくん、たくさん飲むんだね」

「はい!」

リナリーがフンワリと笑った。

白い手が伸びてきて、アレンの頭を撫でた。

「いっぱい食べて、栄養をたきさんとっているから、アレンくんは大きくなるわね」

よしよしと、リナリーはアレンの頭を撫でる。

「…えっとぉ…リナリー…?」

「うん?」

リナリーはにこやかに微笑みながら、アレンの頭を撫でていた。


「アレンが努力しているところ申し訳ねぇが、やっぱり『弟』だよな、こうなると…しかも年の離れた『弟』さ」

ラビがひょっこりと顔を出して、そう言った。

「ラビ?」

リナリーはラビの突然の出現に驚いた声をあげた。

一方のアレンは、

「……おと、う と…」

遠い目をしながら笑みをこぼしながらテーブルに倒れた。ガツンと頭をテーブルに打つ音が響いた。

「きゃああッアレンくん!?」

リナリーの叫び声を聞きながら、『脱・弟プロジェクト』の目標を達成する日はまだまだ遠い、とアレンは痛感した。






君の心も身体も包み込めるくらいの男になりますからね!!

ぜったいに!!




end.
2008/03/09





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