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    07

「いっつも取り巻き連れやがって!身内ばっかで固まってんな!カッコ悪ィーんだよ!」
「ブフォ!?」
「何笑てんねん志摩ぁ!」
「いや、彼の言う通りやなぁ思て…!」
「何納得してんねや!」

中庭の噴水が涼しそうだ
そんな事を考えながら日向の一歩手前で立ち止まる
いくら紫外線対策をしているからといって、抵抗は拭えない

「何騒いでるの?」
「ヒっヒルドールさん!おっおはよう!」
「おはよう、何?喧嘩?若いわね」
「ヒルドールさんもこっち来はったら?」
「いや……ここでいいわ」

ジリ、摺り足で爪先を日陰から覗かせてみるがやはり駄目だ、怖くてこれ以上前には進めなかった

「それより、そこの二人は何を睨み合ってるの?」
「ああ、なんも、所謂同族嫌悪いうやつですわ」
「誰がじゃあ!」

チラリと時計を見ればあと数分で次の授業が始まるという所だった
奥村燐と勝呂とかいう少年は未だ口論を続けているが、知った事かと言わんばかりに一言置いて振り返る

「私先に行ってるわね」
「おっと、いけね!着替えねえと」
「わ、私も着替えないと!」

薄暗く冷たい空気に震動が雑ざる

後ろから忙しない足音が原因だと分かるがだからといって歩調は変えない
漸く隣に来た少年はどこか楽しげに微笑みながら口を開く

「ヒルドールさんてどこから来はったん?」
「え?」
「ハーフっちゅうのも考えたんですけどね、訛りも少しありますし」
「……ここよりずっと西の方よ、貴方達は?」
「僕ら全員京都出身なんですよ」
「京都…いい所?」
「え?」
「…何かまずい事言ったかしら?」
「あ、いや、外国の方って大抵京都に来るもんやと思っとったさかい、自惚れやね」
「ええ所やと思いますよ」
「自分じゃよう分からへんしなあ」
「そうなの…機会があれば行ってみたいわ」
「そん時は俺らが案内したりますよ、ねえ坊」
「そやな」
「ありがとう」



「うおォおおおおおっ!」
「ぬウぐ…!おおおお!」

「………」
「はは、坊もけっこう速いのにやるなあ」
「………」

メフィストに奥村燐を懐柔しろと言われてはいるが、さて具体的にどう手懐けたものか
そもそもあの男の目的が分からない以上、何をどうすれば良いのかなどさっぱりだ
懐深くまで潜るのが最適なのか、それとも弱みにつけこむのが最良なのか…やはり目的によって違ってくる
かといって詳しく聞こうとも思わないから厄介だ

「何をあんなにも躍起になっているのかしら」
「ははは…」
「………」

ふと、こんな子供の群れに混じって自分は一体何をしているのかと自問する
殺しのエキスパートであったはずの自分が今やこの様、故郷にいる部下達には見せられないなと嘲笑し後ろの壁へと背を預けた
それと同時に教師の怒声
何事かと競技場へと視線を移せば二人が取っ組み合いの喧嘩し始めたものだから呆れた

志摩や三輪が慌てて仲裁に向かうのをぼんやりと眺めながら、下から聞こえてくる会話に耳を傾ける

「坊はああみえてクソ真面目すぎて融通きかんとこあってなあ、ごっつい野望もって入学しはったから…」
「野望?」
「坊はね、“サタン倒したい”いうて祓魔師目指してはるんよ」
「ッ!?」
「あっはっはっは…!笑うやろ?」
「志摩さん笑うなんて……坊は“青い夜”で落ちぶれてしまったウチの寺を再興しようと気張ってはるだけなんです…」
「“青い夜”?何だそれ?」
「えー知らんの?…珍しなぁ…」
「青い夜いうのは…16年前、サタンが世界中の有力な聖職者を大量虐殺したって日のことです」
「うちの寺もやられたんよ」

「(16年前…?)」

16年前、確かその年には珍しい事が起こった
お母様もこんな事は初めてだと言っていた程に

太陽が欠け、日中にも拘らず辺りが暗闇に覆われた日
暗闇は吸血鬼の動きを活発にさせ、動揺から規律の乱れた隊、主に人間や魔法使いが狙われ、僅か数時間足らずで敵味方相応の数が死に絶えた

「………」

「1日で大勢の坊主が変死したうちの寺はみんな気味悪がって、檀家さんも参詣者も減って、その内“祟り寺”やいわれるようになってしもたんや」
「坊が生まれて物心つく頃には寺は廃れとったから…」
「授業再開するゾ〜!」

「……“青い夜”ねえ…」






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